iPS細胞から間葉系幹細胞の誘導方法を確立 動物由来成分を含まず再生医療への利用に期待

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2022-09-15 京都大学iPS細胞研究所

ポイント

  1. iPS細胞から動物由来成分を含まない条件で間葉系幹細胞注1)をつくる方法を確立した。
  2. 作製した間葉系幹細胞は、マウスにおいて細胞治療効果がみられた。

1. 要旨

上谷大介特命助教および池谷真准教授(CiRA臨床応用研究部門・T-CiRA共同研究プログラム)らの研究グループは、細胞治療に利用可能な方法で、iPS細胞から神経堤細胞注2)を介して間葉系幹細胞(MSC)を作製する方法を確立しました。
MSCは成体内に存在する幹細胞であり、再生医療で移植する細胞の一つとして、さまざまな疾患等で利用が進められています。これまでにiPS細胞からMSCを誘導する方法は報告していましたが、動物由来成分を含む方法であったため、細胞移植治療に利用するには不向きでした。
研究グループは、培地などを変更し、動物由来成分を含まない条件(XF: Xeno-Free)で、iPS細胞からMSCを高効率に分化誘導することに成功しました。このMSC(XF-iMSC)はマウスの体内に移植すると、骨や骨格筋を再生することができました。XF-iMSCは、自身が骨に分化して骨の再生を促しただけでなく、因子を分泌することで、周囲の細胞の再生を促進していました。この結果から、XF-iMSCが再生医療に利用可能な能力を持っていると考えられます。
この研究成果は2022年9月15日(英国時間)に「npj Regenerative Medicine」で公開されました。

2. 研究の背景

MSCは、生体内に存在する体性幹細胞の一種です。骨髄、脂肪組織、滑膜、歯髄および臍帯血などに存在し、骨細胞、軟骨細胞や脂肪細胞に分化することができます。骨髄由来のMSCは、骨髄移植に古くから使用されており、医療用としては安全であると考えられています。現在MSCは、世界各国で移植片対宿主病、クローン病、虚血性心筋症、脳卒中などの治療あるいは治験に用いられており、さらに多くの細胞移植治療への利用が期待されています。しかし、MSCはヒトの体から採取する必要があります。そのため、高品質のMSCを安定的に供給する方法の開発が不可欠です。
研究グループは、多能性幹細胞からMSCを誘導する方法の開発を進めてきました。発生学的にMSCは中胚葉注3)または神経堤細胞から分化します。神経堤細胞は、脊椎動物の発生過程で見られる多分化能をもった細胞で、末梢神経細胞やグリア細胞などの外胚葉注3)系細胞、MSCを介して骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などの中胚葉系細胞、肝細胞や膵臓細胞などの内胚葉注3)系細胞に分化することが知られています。この知見に基づき、研究グループでは神経堤細胞を介してヒトiPS細胞からMSCを誘導する方法を開発していました(CiRAニュース 2014年12月3日)。しかし、この方法では、動物由来の成分が使われていたため、安全性の観点から細胞移植に使用するには不向きでした。本研究では、再生医療への利用を考慮して、動物由来成分を含まない条件でiPS細胞からMSCを誘導する方法を確立しました。

3. 研究結果

1. iPS細胞から神経堤細胞の作製
これまでの神経堤細胞の作り方では、シャーレと細胞接着させる足場材にマウスの細胞から抽出した成分を使い、誘導する際の培地にウシの血清成分を使っていました。そこで、足場材と培地に動物由来成分を含まないものを用い、神経堤細胞を作る方法を開発しました。
この方法で作製した神経堤細胞は、神経堤細胞のマーカー遺伝子を十分に発現していました。また、末梢神経細胞(Peripherin陽性)、グリア細胞(GFAP陽性)、色素細胞(MITF陽性)へと分化させることができ、神経堤細胞としての多分化能を有していることを明らかにしました(Fig. 1)。

iPS細胞から間葉系幹細胞の誘導方法を確立 動物由来成分を含まず再生医療への利用に期待

Fig. 1 神経堤細胞としての分化能

2. 神経堤細胞からMSCへの分化誘導
作製した神経堤細胞は増殖培養することができ、次第に神経系への分化能は低下し、間葉系の細胞になりやすい細胞へと変化しました。この段階でMSCへと分化誘導すると、2週間くらいでMSCの形に変化しました(Fig. 2)。この細胞(XF-iMSC)は40日以上増殖培養することができ、MSCに特徴的なタンパク質を発現していました。また、このMSCは軟骨・骨・脂肪細胞へとそれぞれ分化する能力がありました。

Fig. 2 神経堤細胞からMSCへと分化する様子

分化誘導開始後1回目の継代時(PN1)から、4回目の継代時(PN4)で細胞の形がMSCに似た形に変化している。

3. XF-iMSCは骨の再生を促進した
XF-iMSCがもつ骨の再生能力について検証を行いました。マウスの頭骨に穴を開け、そこにXF-iMSCから作製した骨の細胞(XF-C-iMSC(OIM))、骨髄由来のMSCから作製した骨の細胞(XF-C-BMMSC(OIM))を移植し、比較をしました。細胞を移植しなかった場合(No graft)と比較して、XF-C-iMSCでもXF-C-BMMSCと同様に骨の再生が見られました(Fig.3)。また、移植したMSC以外の周辺部でも骨の形成が見られ、XF-C-iMSCは自身が骨に分化するとともに、周辺の細胞に影響を与えて骨化を促す効果があることがわかりました。

Fig. 3 移植したMSCによる骨の再生

4. XF-iMSCは筋肉を再生した
続いてXF-iMSCがもつ筋肉の再生能力について検証しました。マウスの脚の筋肉を傷つけ、翌日にXF-iMSCを移植し、筋肉の再生具合を測定しました。細胞を移植しなかった場合(Medium)や皮膚線維芽細胞注4)を移植した場合(HDF)と比べて、XF-iMSCを移植した場合はより回復が早く、細胞移植後2週間の段階で、成熟した筋肉の指標となるMYH4のタンパク質発現は、筋肉を傷つけなかった場合と同程度になっていました(Fig. 4)。移植した細胞にはMYH4の発現が見られず、周りの細胞で発現が見られました。つまり、移植した細胞が筋肉へと変化したのではなく、何らかの因子により、周囲の細胞の筋肉再生を促していると考えられます。

Fig. 4 細胞移植2週間後の免疫蛍光染色像

MYH4: 成熟した筋肉の指標。
h-laminin A/C: ヒト細胞の指標。移植した細胞の場所を示す。
DAPI: 細胞核の指標。

5. XF-iMSCの培養上清が筋肉への分化を促した
XF-iMSCを培養した培養上清(cDM)で、マウスの筋肉から採取した筋芽細胞を培養しました。増殖用培養液(PM)や分化誘導用培養液(DM)と比べてXF-iMSCの培養上清(cDM)では、複数の細胞が融合し、太い繊維を持った筋肉の割合が高くなっていました(Fig. 5)。つまり、cDMに含まれる成分が筋肉への分化を促していることがわかりました。

Fig. 5 筋肉(MHC陽性細胞)へと分化した細胞とその割合

4. まとめと今後の展望

iPS細胞から動物由来成分を含まない条件で、MSCへと分化誘導する方法を確立しました。この方法で作製したXF-iMSCは、骨などに分化する能力があること、マウスへの移植で骨や筋肉を再生する能力があることを示しました。
MSCを使った細胞移植治療はさまざまな応用の可能性が研究されています。今回作製したXF-iMSCも、そうした細胞移植治療に利用できる可能性があります。また、 骨髄や臍帯血由来のMSCと比べて、大量の細胞を入手しやすいというメリットがあります。iPS細胞ストックを利用することで、多くの患者さんに利用可能な細胞を用意することも可能になります。
今後の細胞移植治療で細胞源の一つとして広く利用されること、また、XF-iMSCの培養上清や上清中の有効成分も治療薬の候補になる可能性も期待されます。

5. 論文名と著者

  1. 論文名
    Induction of functional xeno-free MSCs from human iPSCs via a neural crest cell lineage

  2. ジャーナル名
    npj Regenerative Medicine
  3. 著者
    Daisuke Kamiya1,4, Nana Takenaka-Ninagawa1, Souta Motoike1,2, Mikihito Kajiya2, Teppei Akaboshi1,4, Chengzhu Zhao1, Mitsuaki Shibata1, Sho Senda3, Yayoi Toyooka1,4, Hidetoshi Sakurai1, Hidemi Kurihara2, Makoto Ikeya1,4,*
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
    2. 広島大学大学院医系科学研究科
    3. 味の素株式会社 バイオ・ファイン研究所
    4. タケダ-CiRA 共同研究プログラム(T-CiRA)

6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より支援を受けて実施されました。

  1. 日本学術振興会 科研費(#16H05447, #18H02977)
  2. 日本医療研究開発機構(AMED)
    「再生医療実現拠点ネットワークプログラム iPS細胞研究中核拠点」
    「再生医療実現拠点ネットワークプログラム 疾患特異的iPS細胞の利活用促進・難病研究加速プログラム」
  3. iPS細胞研究基金
  4. 武田薬品工業株式会社

7. 用語説明

注1) 間葉系幹細胞
成体内に存在する幹細胞の一種で、骨や軟骨、脂肪などに分化する能力がある。

注2) 神経堤細胞
発生の途中で一時的に現れる細胞で、さまざまな細胞に分化する。第四の胚葉とも呼ばれる。

注3) 外胚葉・内胚葉・中胚葉
発生の過程で、外側の細胞(外胚葉)と内側の細胞(内胚葉)、さらにその両者の間にある細胞(中胚葉)に大きく分かれる。 外胚葉からは皮膚や神経などの細胞が、内胚葉からは消化管や肝臓などが、中胚葉からは血液や筋肉や骨などが作られる。

注4) 線維芽細胞
多くの臓器に存在する。何らかの損傷により組織に傷が生じると、この細胞が増殖し修復する。

細胞遺伝子工学
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