臨床検体から分離した新型コロナウイルス・オミクロン株の BQ.1.1系統とXBB系統に対する治療薬の効果を検証

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2022-12-08 東京大学医科学研究所

発表のポイント

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の3種類の抗体薬(ソトロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ)は、どれもオミクロン株のBQ.1.1系統とXBB系統の感染を阻害しなかった。
  • オミクロン株のBA.2系統とBA.5系統に対して高い感染阻害効果をもつ抗体薬のベブテロビマブも、BQ.1.1とXBBの両系統の感染を阻害しなかった。
  • COVID-19の3種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビル)は、どれもBQ.1.1とXBBの両系統に対して高い増殖抑制効果を示した。
 発表内容

新型コロナウイルス変異株・オミクロン株の流行は、現在も続いています。オミクロン株は、主に5つの系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)に分類されます。2022年11月現在、日本を含む多くの国々で、BA.5系統に属する株が主流となっています。しかし、米国をはじめとする欧米諸国では、BA.5系統から派生したBQ.1.1系統(注1)の感染例が増加しています。また、インドやシンガポールなどのアジア諸国では、BA.2系統から派生したXBB系統(注1)の感染例も急激に増加しています。さらに、BQ.1.1系統とXBB系統が、国内を含む多くの国々で検出されています。
国内では、3種類の抗体薬(注2;カシリビマブ・イムデビマブ、ソトロビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ)と3種類の抗ウイルス薬(注3;レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビル)が、COVID-19に対する治療薬として承認を受けています。しかし、これらの治療薬がオミクロン株のBQ.1.1系統とXBB系統に対して有効かどうかについては、明らかにされていませんでした。
東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、患者から分離したBQ.1.1株とXBB株に対する治療薬の効果を調べました。
はじめに、BQ.1.1株とXBB株に対する4種類の抗体薬(ソトロビマブ、ベブテロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ)の感染阻害効果(中和活性;注4)を調べました(表1)。その結果、BQ.1.1系統とXBB系統に対するソトロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブの中和活性は、いずれも著しく低いことがわかりました。さらに、4種類の抗体薬の中で、BA.2系統とBA.5系統に対して高い中和活性を維持していたベブテロビマブも、BQ.1.1とXBBの両系統に対する活性が著しく低いことが判明しました。
続いて、3種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル)の効果を解析しました。全ての薬剤がBQ.1.1株とXBB株に対して高い増殖抑制効果を示し、それらの抑制効果は、従来株に対するそれと同程度であることが判明しました(表2)。

臨床検体から分離した新型コロナウイルス・オミクロン株の BQ.1.1系統とXBB系統に対する治療薬の効果を検証

本研究を通して得られた成果は、医療現場における適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つだけでなく、オミクロン株各系統のリスク評価など、行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定・実施する上で、重要な情報となります。本研究は日本時間12月8日(米国東部時間7日)、米国医学誌「New England Journal of Medicine (NEJM) 」(オンライン版)に公表されました。
なお、本研究は、東京大学、国立国際医療研究センター、国立感染症研究所、米国ウィスコンシン大学が共同で行ったものです。また、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の一環として行われました。

 発表雑誌

雑誌名:「New England Journal of Medicine (NEJM) 」(12月7日オンライン版)
論文タイトル:Efficacy of Antiviral Agents against Omicron BQ.1.1 and XBB Subvariants
著者:
Masaki Imai*, Mutsumi Ito*, Maki Kiso*, Seiya Yamayoshi*, Ryuta Uraki, Shuetsu Fukushi, Shinji Watanabe, Tadaki Suzuki, Ken Maeda, Yuko Sakai-Tagawa, Kiyoko Iwatsuki-Horimoto, Peter Halfmann, Yoshihiro Kawaoka¶
*:筆頭著者
¶:責任著者

 問い合わせ先

<研究に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
特任教授 河岡 義裕(かわおか よしひろ)

<報道に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

 用語解説

(注1)オミクロン株BQ.1.1系統、XBB系統:
ウイルス感染は、コロナウイルス粒子表面に存在するスパイク蛋白質を介してウイルス粒子が宿主細胞表面の受容体蛋白質に結合することで始まる。実用化されたあるいは開発中のCOVID-19に対する抗体薬は、このスパイク蛋白質を標的としており、その機能を失わせる(中和する)ことを目的としている。BA.5系統は、そのスパイク蛋白質に少なくとも34ヶ所の変異を有する。BQ.1.1系統のスパイク蛋白質は、BA.5系統が持つ34ヶ所の変異に加えて、3ヶ所の変異を有する。BA.2系統は、そのスパイク蛋白質に少なくとも31ヶ所の変異を有する。XBB系統のスパイク蛋白質は、BA.2系統と共通する30ヶ所の変異に加えて、14ヶ所の変異を有する。

(注2)3種類の抗体薬:
カシリビマブ・イムデビマブ(販売名:ロナプリーブ注射液セット)は令和3年7月19日に、ソトロビマブ(販売名:ゼビュディ点滴静注液)は令和3年9月27日に、チキサゲビマブ・シルガビマブ(販売名:エバシェルド筋注セット)は令和4年8月30日に特例承認を受けた。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000996967.pdfを参照。
米食品医薬品局(FDA)は、ベブテロビマブに対して緊急使用許可を出している(令和4年2月11日)。

(注3)3種類の抗ウイルス薬:
レムデシビル(販売名:ベクルリー点滴静注液)は令和2年5月7日に、モルヌピラビル(販売名:ラゲブリオ)は令和3年12月24日に、ニルマトレルビル・リトナビル(販売名:パキロビッドパック)は令和4年2月10日に、それぞれ特例承認を受けている。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000996967.pdfを参照。

(注4)感染阻害効果(中和活性):
抗体が持つウイルスの細胞への感染を阻害する機能。

有機化学・薬学
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