RNAスプライシング制御による新規がん免疫療法~ネオ抗原を産生増強する治療薬候補の同定~

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2022-12-12 京都大学

PD-1阻害抗体など免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞の賦活化を抑制するPD-1などに結合することにより、がん細胞に対するT細胞の攻撃を活性化し、末期がん患者をも救済する画期的な治療薬で、がん治療戦略の中心的存在となりつつあります。残念ながら、免疫チェックポイント阻害剤が奉功しないがん患者様も多数いらっしゃいますが、T細胞は、がん細胞に特異的に発現するネオ抗原を目印としてがん細胞を認識し攻撃しているので、がん細胞のネオ抗原の発現量や多様性を増やすことができれば、がん免疫療法の効果を劇的に高められると予想されます。

萩原正敏 医学研究科教授、網代将彦 同特定講師、松島慎吾 同博士課程学生らの研究グループは、飯田慶 近畿大学講師、本庶佑 京都大学特別教授、茶本健司 医学研究科特定准教授らと共同で、遺伝病治療のためにmRNAのスプライシングパターンを変える低分子化合物の研究開発を行ってきましたが、そのスプラシング制御化合物の一つであるRECTASをがん細胞に投与すると、がん細胞のmRNAスプライシングパターンが変化し、ネオ抗原の発現が亢進することを見出し、これらを「スプライスネオ抗原」と名付けました。またRECTASはPD-1阻害療剤の治療効果を高めるのみならず、RECTASで誘導される「スプライスネオ抗原」のよるがんワクチン療法も可能であることを示しました。RECTASは元々遺伝病治療のために開発されたため毒性もほとんどなく、今回の実験結果は、RNAスプライシング制御薬による次世代がん免疫療法への道を拓く研究成果であると言えます。

本研究成果は、2022年11月30日に、国際学術誌「Science Translational Medicine」に掲載されました。

RNAスプライシング制御による新規がん免疫療法~ネオ抗原を産生増強する治療薬候補の同定~

研究者のコメント

「本研究は、化合物でRNAスプライシングを操作することで、がん細胞に「目印」をつけるというユニークな発想から始まりました。今後もチャレンジングな基礎研究に立ち向かうと同時に、この基礎研究から生まれた成果を臨床開発へ繋げるために研究を進めて参ります。」(松島慎吾)

「本研究は癌研究においてRNAスプライシングの機能の新たな側面を明らかにする成果でもあります。今後も癌の本態に迫るべくさらに研究を進めていきたいと思います。」(網代将彦)

「本庶佑特別教授をセンター長とする新しいがん免疫総合研究センターが京大に出来たので、その新センターに集う新進気鋭の研究者たちとも協力して、一刻も早く新しいがん免疫療法を実用化し、難治のがんに苦しむ方々を一人でも多く救いたいと思っています。」(萩原正敏)

詳しい研究内容≫

研究者情報
研究者名:網代 将彦
研究者名:萩原 正敏

書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1126/scitranslmed.abn6056

【書誌情報】
Shingo Matsushima, Masahiko Ajiro, Kei Iida, Kenji Chamoto, Tasuku Honjo, Masatoshi Hagiwara (2022). Chemical induction of splice-neoantigens attenuates tumor growth in a preclinical model of colorectal cancer. Science Translational Medicine, 14(673):eabn6056.

医療・健康
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