ストレスに強い細胞が膵臓がんの腫瘍形成を促進する(Stress-Tolerant Cells Drive Tumor Initiation in Pancreatic Cancer)

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カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究は、腫瘍の形成と拡大の初期段階を標的とした新しい化学療法薬を生み出す可能性があります。 UC San Diego study may inspire new chemotherapeutic drugs targeting early stages of tumor formation and spread

2023-01-17 カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)

 カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の研究者らは、膵臓腫瘍の発生に重要な分子経路を発見しました。このメカニズムは、この病気の化学療法に対する高い抵抗性と転移の傾向にも寄与している可能性があります。
2022年1月16日にNature Cell Biology誌に掲載されたこの研究では、膵臓腫瘍の発生細胞は、まず腫瘍を促進する微小環境を自ら作り出すことで局所の「孤立ストレス」を克服し、次に周囲の細胞をこのネットワークに勧誘しなければならないことが明らかにされました。この腫瘍形成の経路を標的とすることで、新たな治療薬が膵臓がんの進行、再発、転移を抑制する可能性があります。
筆頭著者であるChengsheng Wu博士(Cheresh教授の研究室の博士研究員)は、膵臓細胞株を低酸素や糖分レベルなどのさまざまなストレスに曝した。そして、過酷な環境に適応できる細胞を特定し、これらの細胞でどの遺伝子や分子が変化しているかを観察した。
ストレスに強い腫瘍形成細胞は、腫瘍を抑制するマイクロRNAであるmiR-139-5pのレベルが低下していた。その結果、細胞表面のGタンパク質共役型受容体であるリゾホスファチジン酸受容体4(LPAR4)がアップレギュレートされることが判明した。
研究チームは、LPAR4の発現が新たな細胞外マトリックスタンパク質の産生を促進し、孤立性がん細胞が自らの腫瘍を支える微小環境の構築を開始することを見いだした。
この新しい細胞外マトリックスは、特にフィブロネクチンが豊富で、周囲の細胞のインテグリンという膜貫通型の受容体に結合するタンパク質であった。このインテグリンは、周囲の細胞上のインテグリンと呼ばれる膜貫通型の受容体と結合するタンパク質で、いったんフィブロネクチンを感知すると、その細胞が自身の腫瘍形成遺伝子を発現するようシグナルを送り始めた。やがて、これらの細胞は、腫瘍形成細胞が形成したフィブロネクチンマトリックスに取り込まれ、腫瘍が形成されはじめた。
腫瘍形成細胞が隔離ストレスを受けると、LPAR4の発現が始まる。これにより、フィブロネクチン(FN1)でいっぱいの新しい細胞外マトリックスが産生され、細胞の安全が保たれるとともに、他の細胞をニッチに呼び寄せて腫瘍形成が開始される。
さらに、インテグリン拮抗薬を用いて、細胞がフィブロネクチンマトリックスを利用する能力を阻害すると、LPAR4発現によるストレス耐性の効果が逆転することも明らかになった。このように、LPAR4経路を標的とすること、あるいはフィブロネクチン/インテグリン相互作用を阻害することは、膵臓腫瘍の成長、拡大、薬剤耐性を防ぐのに有効であることが示唆された。

<関連情報>

膵臓がん細胞は隔離ストレスに応答してLPAR4をアップレギュレートし、ECMに富むニッチを促進し、腫瘍のイニシエーションをサポートする Pancreatic cancer cells upregulate LPAR4 in response to isolation stress to promote an ECM-enriched niche and support tumour initiation

Chengsheng Wu,Taha Rakhshandehroo,Hiromi I. Wettersten,Alejandro Campos,Tami von Schalscha,Shashi Jain,Ziqi Yu,Jiali Tan,Evangeline Mose,Betzaira G. Childers,Andrew M. Lowy,Sara M. Weis & David A. Cheresh
Nature Cell Biology  Published:16 January 2023
DOI:https://doi.org/10.1038/s41556-022-01055-y

ストレスに強い細胞が膵臓がんの腫瘍形成を促進する(Stress-Tolerant Cells Drive Tumor Initiation in Pancreatic Cancer)

Abstract

Defining drivers of tumour initiation can provide opportunities to control cancer progression. Here we report that lysophosphatidic acid receptor 4 (LPAR4) becomes transiently upregulated on pancreatic cancer cells exposed to environmental stress or chemotherapy where it promotes stress tolerance, drug resistance, self-renewal and tumour initiation. Pancreatic cancer cells gain LPAR4 expression in response to stress by downregulating a tumour suppressor, miR-139-5p. Even in the absence of exogenous lysophosphatidic acid, LPAR4-expressing tumour cells display an enrichment of extracellular matrix genes that are established drivers of cancer stemness. Mechanistically, upregulation of fibronectin via an LPAR4/AKT/CREB axis is indispensable for LPAR4-induced tumour initiation and stress tolerance. Moreover, ligation of this fibronectin-containing matrix via integrins α5β1 or αVβ3 can transfer stress tolerance to LPAR4-negative cells. Therefore, stress- or drug-induced LPAR4 enhances cell-autonomous production of a fibronectin-rich extracellular matrix, allowing cells to survive ‘isolation stress’ and compensate for the absence of stromal-derived factors by creating their own tumour-initiating niche.

医療・健康
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