2023-04-05 国立遺伝学研究所
COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の感染を診断するためにRT-qPCR法による検査がおこなわれてきました。その際に、RT-qPCR法ではSARS-CoV-2のN遺伝子の2つの領域に設定されたプライマー・プローブ配列がタカラバイオ社、TOYOBO社製などのRT-qPCRキットに利用されています。
COVID-19のパンデミックが始まって以来、ゲノムに変異が生じたSARS-CoV-2の亜系統が多数出現し、現在、世界および日本ではオミクロン亜系統が主流となっています。2022年10月中旬に大阪で1名の患者から採取された唾液検体から見出したオミクロン亜系統は、N1およびN2のプライマー・プローブ領域に3箇所の変異を持ち、従来のプライマーでは陽性判定できないことがわかりました。
本研究結果により、N1およびN2領域に3箇所の変異のある変異株は従来のプライマー・プローブ配列によるPCR検査で陽性判定されないと考えられることから、COVID-19に特徴的な症状があり、従来のプライマーを用いたPCR検査で陽性判定できなかった場合は、別の箇所のプライマー・プローブでPCR検査を実施することで、このような変異株を見逃すことを回避できると考えられます。
本研究は、国立遺伝学研究所 発生遺伝学研究室の川上浩一教授の研究グループと大阪はびきの医療センター森秀夫医師の共同研究としておこなわれました。
この研究は部分的に国立遺伝学研究所への寄附金によって支援されています。
本研究成果は、国際科学雑誌「Cureus」に2023年3月19日(日本時間)に掲載されました。
図: (A) N1およびN2領域のプライマー・プローブセットの配列と今回見つかった変異の位置。矢印(N1-F、N1-R、N2-F、N2-R)はプライマーの位置を示す。黄色ラベルはプローブ(N1-PおよびN2-P)の位置を示す。患者のサンプルにC28311T、A28330G、C29200Tの変異が見つかった。
(B) N1およびN2プライマー・プローブを用いて行ったRT-qPCRの増幅曲線。
陽性対照、N1領域に2つの変異をもつBA.5.2、およびN1領域に2つの変異とN2領域に1つの変異をもつ変異体を、タカラバイオ社製RT-qPCRキットで解析した結果。
Stealth Omicron: a novel SARS-CoV-2 variant that is insensitive to RT-qPCR using the N1 and N2 primer-probes
Hideo MORI, Hiroko YOSHIDA, Hideharu MORI, Tomoya SHIRAKI, Koichi KAWAKAMI
Cureus (2023) 15, e36373 DOI:10.7759/cureus.36373