2023-10-13 九州⼤学
ポイント
- ヒロズコガ科のシロナガヒロズコガ亜科は、熱帯を中⼼に世界に広く分布している。本亜科に含まれる種の幼⾍は⽊材に穿孔することが⽰唆されていたが、その⽣活史の詳細はまったく知られていなかった。
- 本亜科に含まれるイッテンシロナガヒロズコガの幼⾍が、「ナラ枯れ」で枯死した直後の⽊材で発⽣することを発⾒し、その⽣態を世界で初めて解明した。
- 今回の発⾒は、鱗翅類の⾷性や⿎膜器官の進化の研究に役⽴つことが期待される。
概要
ヒロズコガ科のシロナガヒロズコガ亜科は、熱帯を中⼼に世界に広く分布しています。本亜科に含まれる種の幼⾍は⽊材に穿孔することが⽰唆されていましたが、その⽣活史の詳細はまったく知られていませんでした。⼀⽅、本亜科の種はメイガ上科を除く⼩蛾類では例外的に成⾍が⿎膜器官(※2)をもつことが知られていましたが、なぜこの亜科の種だけがもつのかは不明でした。
2022年、本亜科に含まれるイッテンシロナガヒロズコガの幼⾍が、「ナラ枯れ」で枯死した直後の⽊材でおそらく甲⾍類の穿孔を利⽤して発⽣することを発⾒し、その⽣態を世界で初めて解明しました。今回の研究で、本種を含む本亜科の種は、雌雄の交信、コウモリへの対抗策、穿孔している甲⾍類幼⾍の探索に⿎膜器官を多⾯的に利⽤していることを⽰唆しました。
アマチュア研究者の児⽟洋⽒が2022 年に和歌⼭県橋本市で本種の幼⾍をナラ枯れによるコナラの枯死⽊の穿孔から発⾒し、得られた幼⾍を飼育しました。九州⼤学⼤学院農学研究院の廣渡俊哉教授は、このガの種を同定し幼⾍や蛹の形態を世界で初めて詳しく記載しました。
今回の発⾒は、鱗翅類(※1)の⾷性や⿎膜器官の進化の研究に役⽴つと思われます。また、このような鱗翅類の幼⾍の腸内フローラは、難分解性物質の分解に関わる応⽤研究への発展も期待されます。
本研究成果は国内の雑誌「Lepidoptera Science」に2023年10⽉3⽇(⽕)に公開されました。
(上図)木材(枯死木)から発生したイッテンシロナガヒロズコガ
研究者からひとこと
今回の発見は、地道にナラ枯れから発生する昆虫を調べているアマチュア研究者によってもたらされたものです。長年未解明であったシロナガヒロズコガ亜科の幼生期を明らかにした研究成果は世界的にも高く評価されており、今後、鱗翅類の食性や鼓膜器官の進化をはじめとして、様々な研究の展開が期待されます。
用語解説
(※1) 鱗翅類:チョウやガを含む昆虫のグループ。翅や体が鱗粉で覆われるのが特徴。
(※2) 鼓膜器官:聴覚器官(耳)のこと。鱗翅類では主に夜行性のガ類の一部に見られ、コウモリが発す超音波への対抗策として獲得したと考えられている。
(※3) 腸内フローラ:腸内微生物のこと。
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論文情報
掲載誌:Lepidoptera Science
タイトル:Biology on immature stages of wood-boring Micrerethista denticulata Davis(Tineidae, Harmacloninae): The world’s first report of the immature stages of the subfamily
(木材に穿孔するイッテンシロナガヒロズコガ(ヒロズコガ科,シロナガヒロズコガ亜科)の幼生期の生態と形態:本亜科世界初の幼生期の報告)
著者名:Hiroshi Kodama and Toshiya Hirowatari(児玉洋・廣渡俊哉)
DOI:10.18984/lepid.74.3_59
研究に関するお問い合わせ先
農学研究院 廣渡 俊哉 教授