2023-10-31 九州大学
ポイント
- 体内に存在する胚中心とよばれる領域で、より良質な抗体を産生する細胞が選択される仕組みは長らく謎に包まれていた。
- 胚中心B細胞が抗原を受け取る際に生じるカルシウム刺激とBcl2a1発現が良質な抗体を産生するB細胞を選別することを解明。
- 感染症に対してより効果的なワクチンの開発や改良への応用に期待。
概要
私たちの体をウイルスなどの外敵(抗原※1)から守るために作られる抗体(※2)はB細胞(※3)によって作られます。B細胞はリンパ組織の中に作られる胚中心と呼ばれる場所で、抗体の性能を高め、生体防御の役割を果たします。胚中心では、より良質な抗体を作ることができる胚中心B細胞が優先的に選択されて抗体産生細胞へと分化していきますが、その仕組みは長らく未解明でした。
九州大学生体防御医学研究所の馬場義裕教授、同大学大学院医学系学府の矢田裕太郎大学院生、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの黒崎知博特任教授(常勤)、松本真典助教(研究当時)らの共同研究グループは、より良質な胚中心B細胞が選択される際に、B細胞受容体(※4)のシグナル伝達による細胞の生存を助ける仕組みが存在することを発見しました。
研究グループはB細胞受容体のカルシウム刺激伝達が減弱するB細胞特異的STIM欠損マウスを用いて、B細胞受容体からのカルシウムシグナルが胚中心における良質なB細胞の選択に必要であることを証明しました。さらに、細胞の生存を助けるBcl2a1という遺伝子の発現が、B細胞受容体の刺激によって増加することが、この選択を支える分子メカニズムであることを明らかにしました。
従来、胚中心B細胞の選択にはB細胞受容体シグナルは重要視されてきませんでしたが、今回の発見は、胚中心B細胞の選択の新たな機序を明らかにしただけでなく、感染症に対してより効果的なワクチンの開発につながることが期待されます。
本研究成果は米国の科学誌「Journal of Experimental Medicine」に2023年10月30日(月)(日本時間 午後11時)に掲載されました。
胚中心B細胞が選択される仕組み:B細胞受容体からの刺激により良質な細胞が生き残りやすくなる
用語解説
(※1) 抗原
病原性のウイルスなど、生体に免疫応答を引き起こす物質
(※2) 抗体
体内に入った異物を体外へ排除するために作られる免疫グロブリンというタンパク質の総称。B細胞が成長分化した抗体産生細胞から分泌される。
(※3) B細胞
免疫担当細胞であるリンパ球の一種で、抗体産生細胞へと成長分化し抗体を産生する役割をもつ。1つのB細胞は1種類の抗体しか作れないため、さまざまな感染症に対応するために生体内には多数のB細胞が用意されており、感染症ごとに適切なB細胞が選択され、抗体産生細胞へと成長分化して抗体を産生するようになる。
(※4) B細胞受容体
B細胞が細胞表面に発現するタンパク質で、抗原に結合する役割をもつ。抗原が結合すると細胞の中に刺激が入り、細胞の活性化が起こる。B細胞が抗体産生細胞へと分化成長すると、B細胞受容体が抗体として体内へ分泌されるようになる。
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論文情報
掲載誌:Journal of Experimental Medicine
タイトル:STIM-mediated calcium influx regulates maintenance and selection of germinal center B cells
著者名:Yutaro Yada, Masanori Matsumoto, Takeshi Inoue, Akemi Baba, Ryota Higuchi, Chie Kawai, Masashi Yanagisawa, Daisuke Kitamura, Shouichi Ohga, Tomohiro Kurosaki, Yoshihiro Baba
DOI:10.1084/jem.20222178
研究に関するお問い合わせ先
生体防御医学研究所 馬場 義裕 教授