2023-11-14 九州大学
ポイント
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension, CTEPH)は肺動脈内の器質化血栓(※1)により肺動脈の狭窄・閉塞が生じ、肺高血圧と右心不全を呈する、国内約5000人の希少疾患です。
- 抗凝固療法(※2)はCTEPHにおいて最も基本的かつ重要な治療ですが、食事制限や頻回な採血を必要とするワルファリンのみが診療ガイドラインで推奨されており、これらのワルファリンのデメリットを克服した新規経口抗凝固薬(Direct Oral Anticoagulants, DOAC)(※3)の安全性と有効性に関するエビデンスは確立されていませんでした。
- 本研究では、世界で初めてCTEPHに対する新規経口抗凝固薬エドキサバン(※4)の有効性と安全性を、全国11施設による第III相医師主導治験(※5)によって示しました。
概要
本邦発の新規経口抗凝固薬であるエドキサバンをCTEPHに対して適応拡大することを目的とし、2021年1月に「慢性血栓塞栓性肺高血圧症を対象としたエドキサバンの有効性及び安全性を検証するワルファリン対照、多施設共同ランダム化比較試験 第Ⅲ相医師主導治験 KABUKI trial」(治験調整医師・AMED研究代表者 九州大学病院循環器内科 阿部弘太郎講師、九州大学病院治験責任医師 細川和也助教)を開始しました(図1)。全国11の治験実施医療機関(九州大学病院、杏林大学医学部附属病院、東邦大学医療センター大橋病院、東北大学病院、神戸大学医学部附属病院、名古屋大学医学部附属病院、東京大学医学部附属病院、千葉大学医学部附属病院、国際医療福祉大学三田病院、東京医科大学病院、北海道大学病院)で実施し、2022年4月に目標症例数である74症例の登録を完了し、2023年3月末に症例観察を終了しました。
本治験では、ワルファリンを内服中のCTEPH患者さんに、エドキサバンまたはワルファリンを内服していただき、1年後の肺血管抵抗の変化や、経過中の出血や血栓症の発症などを観察しました。その結果、エドキサバンを内服した患者さんの1年後の肺血管抵抗は、ワルファリンを内服した患者さんの肺血管抵抗と比べて悪化はなく(図2)、大出血や血栓症の発生も、2つの薬剤間で差はありませんでした。以上より、エドキサバンのCTEPHに対する有効性が検証され、安全性についても臨床上問題がないことが確認されました。今後、第一三共株式会社より、エドキサバンの適応症としてCTEPHを追加するための承認申請が行われる予定です。
本研究は、2023年11月13日の米国心臓病協会(AHA)総会での口頭発表と同日(日本時間2023年11月14日(火)午前3時)に循環器領域で最も権威のあるCirculation誌に掲載されました。
用語解説
(※1)器質化血栓
十分な抗凝固療法を3か月以上行っても溶けない血栓のこと。
(※2)抗凝固療法
血管の中で血液の固まり(血栓)ができにくくする治療法のこと。
(※3)新規経口抗凝固薬(Direct Oral Anticoagulants, DOAC)
ビタミンKと関係なく直接特定の血液凝固因子の働きを阻害することで血液を固まりにくくする抗凝固薬。ビタミンKの阻害により血液凝固因子の合成を減らすことで血液を固まりにくくするワルファリンと異なり、ビタミンKを多く含む食事の制限や、頻回の採血による用量調節が不要。
(※4)エドキサバン
第一三共株式会社より「リクシアナ®」という商品名で発売されているDOAC。非弁膜症性心房細動、静脈血栓塞栓症、下肢整形外科手術施行患者に使用される。
(※5)医師主導治験
製薬企業等が実施する企業治験とは異なり、医師自らが計画し、実施する治験。
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論文情報
掲載誌:Circulation
タイトル:A Multicenter, Single-Blind, Randomized, Warfarin-Controlled Trial of Edoxaban in Patients with Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension: KABUKI Trial
(慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者を対象としたエドキサバンの多施設共同、単盲検、無作為化、ワルファリン対照試験: KABUKI試験)
著者名:Kazuya Hosokawa(細川和也)
DOI:10.1161/CIRCULATIONAHA.123.067528
研究に関するお問い合わせ先
九州大学病院 循環器内科 細川 和也 助教
九州大学病院 循環器内科 阿部 弘太朗 講師