ワクチン接種後の睡眠時間と獲得抗体価が相関

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2023-12-14 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院臨床検査部の松井健太郎医長、精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部の伊豆原宗人研究員および栗山健一部長らの研究グループは、mRNAワクチン接種後の客観的睡眠の長さと抗体価が相関することを明らかにしました。
今回の発見から、mRNAワクチン接種後の客観的睡眠時間の延長が、抗体獲得を増強させる可能性があり、ワクチン接種後の睡眠時間延長の推奨によりワクチンの疾患予防効果を高める可能性が見いだされました。
本研究成果は日本時間2023年12月11日に、米国のオンライン総合学術雑誌「Frontiers in Immunology」に掲載されました。

研究の背景

従来型の不活化ワクチンについては、睡眠制限・断眠試験や観察研究により、客観的睡眠時間(加速度センサなどを搭載する活動量計などで評価した睡眠時間)と抗体価上昇との相関が示されてきました。しかし、mRNAワクチンでは主観的睡眠時間(本人の評価に基づく睡眠時間)と抗体価の相関が乏しいとの報告があるのみで、mRNAワクチンによる抗体価獲得と睡眠の関連は詳しく研究されてきていませんでした。
そこで、本研究では、mRNAワクチン接種前後の睡眠状態を主観的睡眠(毎日の睡眠日誌をもとに評価)および客観的睡眠(腰につけた活動量計をもとに評価)の両方を計測することで、mRNAワクチンによる抗体価獲得と睡眠との関連を明らかにする研究を行いました。

研究の概要

不活化ワクチンを用いた先行研究では、1日4時間の睡眠制限を6日間実施すると抗体価上昇が半減する(インフルエンザワクチン)、一晩の完全断眠で抗体価が半減する(A型肝炎ワクチン)、ワクチン接種前後の睡眠時間が長いと抗体価の上昇が大きい(B型肝炎ワクチン)、睡眠時間と抗体価の相関は4か月以降も持続する(インフルエンザワクチン)などの報告がされていました。一方、mRNAワクチンを用いた研究は、主観的睡眠時間と抗体価の相関がなかったとする報告が一報あるのみで、睡眠とmRNAワクチンとの関係は詳しく研究されていませんでした。そこで私たちは、睡眠時間が長いと、mRNAワクチンによる抗体価の上昇も増える、という仮説を検証するために研究を行いました。
研究参加者はホームページなどを通してリクルートしたCOVID-19に対するワクチンを接種したことのない健康な20 ~60歳の一般男女です。参加者には図1のような睡眠日誌(主観的な睡眠の計測)および活動量計(客観的な睡眠の計測)をつけてもらい、1回目ワクチン接種前から2回目ワクチン接種後2週間まで睡眠の測定を行いました。計測終了時に採血を行い、抗体価の測定を行いました。Sタンパクに対する抗体(ワクチンでも感染でも上昇)とNタンパクに対する抗体(感染のみで上昇し、ワクチンでは上昇しない)の両方を計測することで、SARS-CoV2の感染歴がある者は除外しました。そのほか、常用薬を飲んでいる、研究開始1か月以内にほかのワクチン接種があるなどの方は除外しました。
50名が研究参加に同意し、2名が脱落(参加同意後のワクチン接種忌避1名、既感染1名)し、48名が解析対象となりました。年齢の中央値は39.5(四分位33.0-44.0)歳、女性が30名でした。ワクチン種別は、ファイザー(BNT-162b2)34名、モデルナ(mRNA-1273)14名でした。ワクチン種別の差を吸収するために、Z変換という統計的な操作を行いました。

図1 活動量計と睡眠日誌

ワクチン接種後の睡眠時間と獲得抗体価が相関

左:活動量計。腰につけて24時間活動と休息を計測する。加速度計が入っており、動いている、いないの情報から睡眠を計測。ポジションセンサーにより寝ているか座っているかの判定も可能。
右:睡眠日誌、翌朝にその前の晩にどの程度眠れていたかを主観的に評価

先行研究の結果から、ワクチン接種前後3日間の平均睡眠時間と抗体価を比較しました。また、mRNAワクチンは1週間程度抗原を産出するという動物実験の結果から、ワクチン接種後7日間の平均睡眠時間も比較しました。
解析の結果、2回目ワクチン接種後3日間、7日間の客観的睡眠時間と抗体価は正に相関していました(寝ている時間が長いほど、抗体価も大きい、図2)。この結果は、年齢、性別、ワクチン種別、副反応の強さを調整した後も変わりませんでした。
1回目のワクチン接種の前後3日間の客観的睡眠時間、2回目接種の前3日間の客観的睡眠時間、全観察期間の客観的睡眠時間と抗体価との間にはいずれも相関がありませんでした。さらに、主観的睡眠時間は上記のどの期間においても抗体価との間に相関がありませんでした。
本研究の結果から、ワクチン接種後に十分な睡眠をとることでワクチンの効果を高めることができる可能性が示されました。
また、本研究ではワクチン接種タイミングについても検討しましたが、接種タイミングと抗体価の相関はありませんでした。mRNAワクチンを用いたほかの研究では、やはり接種タイミングが抗体価と相関しないという研究と、午後の接種の方が抗体価が高いという結果があります。これらの研究では客観的な睡眠時間については考慮されていませんでした。接種タイミングについては、効果がないか、あっても弱い可能性があります。

図2 抗体価と客観的睡眠時間の関係

抗体価と客観的睡眠時間の関係のグラフ

2回目接種後の客観的睡眠時間が長い参加者において抗体価が高い傾向が見いだされた。

本研究は、広域移動制限中に行われたため、十分な参加者の数が確保できず、結果には慎重な解釈が必要です。また、本研究は観察研究であるため、睡眠制限や断眠試験など操作的な研究が望まれます。
なお、本研究は国立精神・神経医療研究センターの倫理委員会の承認を経て行われ、参加者からは口頭及び文書で同意を得ました。また、本研究計画は事前にUMINに登録、発表されました(UMIN000045009)。

今後の展望

本研究では、ワクチン接種後に十分な睡眠をとることでmRNAワクチンによる防御効果を高めることができる可能性が示されました。現時点でmRNAワクチンの適応はSARS-CoV-2に限定されていますが、将来的には悪性腫瘍に対する免疫療法や酸素欠損症の補充療法など幅広い領域への応用が期待されています。将来登場するであろうmRNAワクチンに対しても抗体価を計測するとともに、原疾患に対する治療効果も調査し、睡眠の重要性について検証ができたら、と考えております。

用語の説明

1)mRNAワクチン:体内で抗原を産生できる新しいタイプのワクチン。不活化ワクチンなどと比べ、抗原への曝露時間が長い可能性が示唆されている。
2)主観的・客観的睡眠時間:自身が評価した睡眠時間と、計器を用いて評価した睡眠時間をそれぞれ指す。主観的睡眠時間が必ずしも客観的睡眠時間と一致しないことが睡眠研究においてしばしば問題となる。

原著論文情報
  • 論文名:Association between Sleep Duration and Antibody Acquisition after mRNA Vaccination against SARS-CoV-2
  • 著者:Muneto Izuhara, Kentaro Matsui, Takuya Yoshiike, Aoi Kawamura, Tomohiro Utsumi, Kentaro Nagao, Ayumi Tsuru, Rei Otsuki, Shingo Kitamura, Kenichi Kuriyama
  • 掲載誌: Frontiers in Immunology
  • DOI/URL: https://doi.org/10.3389/fimmu.2023.1242302
研究経費

本研究結果は、以下の日本学術振興会・科学研究費補助金、および国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費の支援を受けて行われました。
科研費補助金:19K08016、22K15758
国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費:2-1

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立精神・神経医療研究センター病院
臨床検査部 松井健太郎

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課広報室

医療・健康
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