2024-03-07 京都大学
東樹宏和 生命科学研究科教授、鈴木紗也華 生態学研究センター博士課程学生(研究当時)および馬場友希 農業・食品産業技術総合研究機構上級研究員らの研究グループは、多様な生物種が織りなす相互作用ネットワークに着目し、生態系全体の「柔軟性」を高める役割を果たす種を探索する手法を開発しました。
社会の中において人と人が網の目のように構築されているように、生態系の中における生物種間の関係性も複雑なネットワークを形成しています。こうした相互作用で構築されるシステムが、環境の変化に対して脆弱なのか、頑健なのか、という問いは、基礎科学の面でも、応用科学の面でも、重要な意味を持っています。
本研究では、生物種間ネットワークの構造が、時間の移り変わりとともに変化していく程度を定量化するとともに、ネットワーク全体の柔軟性を高める働きをする生物種を探索する指標を開発しました。「DNAメタバーコーディング」と呼ばれる技術を用いた先行研究で明らかになった草原生態系内における「食うー食われる」関係のネットワークにこの手法を適用したところ、数種類の捕食者と被食者が生物群集全体の柔軟性に寄与していることが推測されました。
生物多様性が世界中で減少する中、生物群集全体の柔軟性を高める種を見出すことで、頑健な生態系を効率的に再生していく道が見えてくると期待されます。DNA分析や情報科学的手法の発展によって、生物種間ネットワークの動態が徐々に明らかになってきているため、さまざまなタイプの生態系のそれぞれにおいて、システム全体の柔軟性・頑健性を高める鍵を見出していくことができると期待されます。
本研究成果は、2024年3月5日に、国際学術誌「PNAS Nexus」に掲載されました。
構造が柔軟な相互作用ネットワークは、環境撹乱に対して頑健であると期待される(左)。ネットワークの柔軟性に寄与する種を探索する手法を開発した(右)。
研究者のコメント
「自律的に自分の役割を変化させる人の多い柔軟な組織と、各自が縦割りの領域内で硬直的にしか動かない組織とでは、パフォーマンスも危機に対する頑健性も、格段に違います。システム全体の柔軟性を高める働きを担う要素をネットワーク構造の中から見出すことで、生態系の安定性と機能に関する理解が深まっていくと期待しています。」
詳しい研究内容について
「やわらかい」ネットワークを作るコア生物種―生態系の柔軟性を支える種を探索する―
研究者情報
研究者名:東樹 宏和