生命現象中の細胞膜の脂質秩序を連続観察できる蛍光色素の開発 ~細胞接着やがん、線維症など病態の解明に光~

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2024-03-12 九州大学

ポイント

  • 細胞脂質の成分組成を長時間観察できる高光安定性かつ低毒性の蛍光色素を開発
  • 細胞分裂における膜組成の変化の一部始終の連続観察(1時間)に成功
  • 膜タンパク質と細胞膜が関与する生命現象や病態形成のメカニズム解明に道

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の田中拓哉大学院生と小西玄一准教授、九州大学 大学院理学研究院 生物科学部門 松本惇志博士と池ノ内順一教授らの研究チームは、高光安定性かつ低毒性のソルバトクロミック蛍光色素(用語1)を開発し、約1時間の細胞分裂において、細胞膜中の脂質の組成や流動性を連続撮影することに成功した。
生きた細胞の生体膜中の脂質層の組成や秩序とその時間変化の解析は、細胞接着やシグナル伝達などの生命現象や、がんなどの病態形成の解明の鍵を握っている。しかし、従来用いられてきた蛍光色素には高い毒性や低い光安定性といった問題があり、生きた細胞膜の脂質組成などの長時間観察はこれまで実現されていなかった。
本研究チームは、蛍光の極性応答に必要な電子受容性官能基(用語2)として、脂質に含まれるエステル結合を用いてソルバトクロミック蛍光色素を開発した。細胞死を誘導せず、強いレーザー光を照射しても安定なこの新しい色素を用いることで、生命イベントの連続的な可視化に成功した。この色素は一般的な蛍光顕微鏡だけでなく、数ナノのサイズを判別する超解像顕微鏡にも用いることができ、多様な膜機能の解明、細胞外/細胞内刺激に応答した膜タンパク質の活性化などのメカニズム解明につながると期待される。
本研究成果は、総合科学雑誌「Advanced Science」(インパクトファクター: 15.1)に3月12日(現地時間)に公開された。


図1. ソルバトクロミックプローブの分子構造と細胞分裂の経時変化

用語解説

(用語1)ソルバトクロミック蛍光色素: 周囲の極性環境によって蛍光波長が変化する色素。機能性蛍光色素として、バイオイメージングだけでなく、化学センサーとして広く用いられている。

(用語2)電子受容性官能基:電子を吸引し、電子密度を小さくする効果を持つ置換基の称号。逆に電子を供与する置換基を電子供与性官能基と呼ぶ。

論文情報

掲載誌:Advanced Science
論文タイトル:Fluorescent solvatochromic probes for long-term imaging of lipid order in living cells(和訳:生きた細胞内の脂質秩序を長期間イメージングする蛍光ソルバトクロミックプローブ)
著者:Takuya Tanaka,1 Atsushi Matsumoto,2 Eiji Tsurumaki,3 Andrey S. Klymchenko,4 Junichi Ikenouchi,*2 Gen-ichi Konishi*1(田中 拓哉,1 松本 惇志,2 鶴巻 英治,3 アンドレイ・クリムチェンコ,4 池ノ内 順一,*2 小西 玄一*1)
所属:1. 東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
2. 九州大学 大学院理学研究院 物質化学生命系
3. 東京工業大学 理学院 化学系
4. ストラスブール大学
DOI: 10.1002/advs.202309721

研究に関するお問い合わせ先

理学研究院 池ノ内 順一 教授

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