「ミニ腸」を用いて新型コロナウイルスの増殖性、病原性を検証 ~短期・長期にわたってウイルス感染を抑制するサイトカインを発見~

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2024-03-28 国立成育医療研究センター

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)再生医療研究センターの阿久津英憲、国立感染症研究所インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センターの宮川敬、同ウイルス第三部の梁明秀らの研究グループは、横浜市立大学、国立国際医療研究センターと共同で、ヒト腸管オルガノイド[1]「ミニ腸[2]」を用いて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関する研究を行いました。
研究では、SARS-CoV-2のデルタ株とオミクロン株系統(BA.2、BA.2.75、BA.5、XBB.1)において、腸での増殖性(ウイルス量がどう変化するか)、細胞傷害性(細胞の生存や機能にどう影響をあたえるか)、持続感染性(どのくらいの期間、感染するか)を検証しました。その結果、BA.2.75の腸管上皮細胞[3]での増殖性は、BA.2より12.5倍も高いことが明らかになりました。一方で、BA.5やXBB.1などは、BA.2と同様に腸での増殖性が低いことが分かりました。(図1)

SARS-CoV-2のミニ腸への感染の図

【図1 SARS-CoV-2のミニ腸への感染】

また、デルタ株やBA.2.75に感染したミニ腸では、細胞死マーカーの上昇や炎症性サイトカイン[4]の顕著な分泌が見られ、腸の組織での細胞傷害性が示唆されました。一方、抗ウイルス性サイトカインの一種であるインターフェロン[5](IFN)-λ2の分泌は、腸での増殖性が低いBA.2、BA.5、XBB.1では顕著に増加し、腸での増殖性の高いデルタ株やBA.2.75では低い値を示しました。(図2)

感染ミニ腸の分泌サイトカイン解析結果のグラフ

【図2 感染ミニ腸の分泌サイトカイン解析結果】

そこで、デルタ株やBA.2.75感染時にIFN-λ2を投与すると、これらの短期および長期のウイルス感染が顕著に抑制されました。これらの結果からIFN-λ2は、腸においてSARS-CoV-2の感染から宿主を防御する役割があることが示されました。
さらに、デルタ株とBA.2.75は、ミニ腸において30日を超える長期間にわたって持続的に感染することも明らかになりました。SARS-CoV-2は、気道や肺といった呼吸器以外の臓器にも感染することが知られていますが、腸でのウイルスの持続的な感染がいわゆるコロナ後遺症に関係することが報告されています。本ミニ腸モデルを活用することで、SARS-CoV-2が腸で持続的に感染するメカニズムの解明や、コロナ後遺症の克服に向けた新たな治療法の開発に役立つことが期待されます。
本研究は、デルタ株とオミクロン株系統の腸管組織における増殖性の違いを明らかにするとともに、IFN-λ2がSARS-CoV-2の長期にわたる感染を抑制させることに重要な役割を果たすことを示しました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病態理解と新たな治療法の開発につながる重要な知見です。
本研究成果は、2024年3月15日に米国消化器病学会の学会誌「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology (CMGH)」にオンライン掲載されました。
[1] オルガノイド:試験管の中で幹細胞から作られる、立体臓器。
[2] ミニ腸:ヒトiPS細胞より創り出した小腸の立体臓器モデルで、国立成育医療研究センターの阿久津英憲らが2017年に開発。(ES細胞から機能的で動きも伴う立体臓器(「ミニ腸」)を創り出すことに成功)
[3] 腸管上皮細胞:腸の組織を細菌から守るために粘膜バリアを構築する細胞で、栄養や水分の吸収機能も担う。
[4] 炎症性サイトカイン:炎症を促進させる重要な調節因子で、細胞から分泌されるタンパク質の総称。
[5] インターフェロン:サイトカインの1つで、抗ウイルス作用や、細胞の増殖を抑制させる作用などがある。

プレスリリースのポイント

  • iPS細胞から創り出した「ミニ腸」にSARS-CoV-2を感染させ、増殖性、細胞傷害性、持続感染性を検証しました。
  • BA.2.75に感染したミニ腸では、炎症性サイトカインが顕著に分泌され、腸における強い細胞傷害性が示唆されました。
  • デルタ株、BA.2.75では、30日を超える長期間にわたって、ミニ腸での持続感染が確認されました。
  • インターフェロン(IFN)-λ2を投与すると、短期および長期にわたってデルタ株やBA.2.75の増殖を抑制させることができました。IFN-λ2は、SARS-CoV-2の腸への感染から宿主を守る役割があると考えられます。

SARS-CoV-2持続感染におけるIFN-λ2の効果のグラフ

【図3 SARS-CoV-2持続感染におけるIFN-λ2の効果】

研究概要

➀ウイルスの増殖性と、細胞傷害性について

デルタ株、オミクロン株(BA.2、BA.2.75、BA.5、XBB.1)のウイルスをミニ腸に感染させ、ウイルスの増殖性を時間の経過にそって調べました。その結果、すべての株が腸への感染性を示しました(図1)。特に、デルタ株とオミクロン株BA.2.75では高い増殖性を示し、感染に伴って分泌される炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)の量が高いことが分かりました。一方で、BA.2、BA.5、XBB.1では腸での増殖性が低く、これらの株を感染させたミニ腸からは、抗ウイルス活性を有するIFN-λ2が多く分泌されていました(図2)。

➁持続的な感染について

次に、感染の持続性について調べたところ、デルタ株やBA.2.75を感染させたミニ腸では、感染後30日が経ってもウイルスの増殖が続いていて、持続的な感染が強く示されました。これらの株を感染させたミニ腸へサイトカインの一種であるIFN-λ2を投与することによって、ウイルスの増殖を短期および長期にわたって抑制できるかどうかを検証した結果、IFN-λ2はデルタ株およびBA.2.75におけるウイルスの増殖を抑制させました(図3)。これは、腸のIFN-λ2がウイルスの増殖を抑制させる働きを持つ可能性を示唆しています。

発表論文情報

タイトル: Replication efficiency of SARS-CoV-2 Omicron subvariants BA.2.75, BA.5, and XBB.1 in human mini-gut organoids.
著者: 宮川敬1,2*、町田正和3、川崎友之3、柿崎正敏4、木村弥生5、杉山真也6、長谷川秀樹1、梅澤明弘3、阿久津英憲3*、梁明秀2,4*
所属:
1)国立感染症研究所 インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター
2)横浜市立大学医学部微生物学
3)国立成育医療研究センター 再生医療研究センター
4)国立感染症研究所 ウイルス第三部
5)横浜市立大学 先端医科学研究センター
6)国立国際医療研究センター 感染病態研究部
掲載雑誌:Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology
DOI:10.1016/j.jcmgh.2024.03.003

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