2024-04-02 京都大学
先天異常は全新生児の約6%が有するとも言われ患者ならびに患者家族のQOL(Quality of Life)に多大な影響をおよぼす異常です。先天異常の予防や治療には継時的かつ多様な地域における疫学実態の把握が欠かせませんが、体系的研究が始まったのは1960年代以降でありそれ以前、特に前近代にどういった先天異常がどの程度存在したかという実態は世界的にほとんど解明されていませんでした。
東島沙弥佳 白眉センター/総合博物館特定助教、山田重人 医学研究科教授の研究グループは、その暗黒時代解明に日本の古典が役に立つことを示しました。日本最初の正史である『日本書紀』には初代天皇から41代天皇までの天皇系譜と事績が記述されていますが、その中には先天異常を患っていたと考えうる記述が含まれていることを本研究グループは発見しました。そこでこれらの記述をピックアップし、医学的ならびに史学的観点から検証することで、これらが先天異常である可能性および症例の診断を行いました。今回検討した記述の中には、史書成立の背景からもたらされたと考えうる比喩的表現も存在したものの、現代医学の観点からは明確に先天異常だと考えうる記述も発見することができました。本研究は、これまで専ら史学的資料として取り扱われてきた文献を分野横断的研究視点で読解することで、古代文献にある種の医学カルテとしての意義を付与するもので、同様の研究アプローチを広めていくことで日本のみならず古代における東アジア全体の先天異常実態解明にも寄与できる可能性を示すことができました。
本研究成果は、2024年3月28日に、国際学術誌「Studies in Japanese Literature and Culture」にオンライン掲載されました。
これまで専ら、いわゆる「文系」の研究対象だと思われてきた『日本書紀』だが、視点を変えて読み解くことで、当時の人々が生きた世界の新たな側面を教えてくれることを実証した。
研究者のコメント
「先天異常はさておき、私は実はしっぽの研究者です。普段は生物学的な実験や解剖を行ったりもします。そんな人間がなぜ、『日本書紀』に手をだしたのでしょう?その答えは、私の専門・しっぽにあります。『日本書紀』にはしっぽの生えた人に関する記述がある。それに気づいたときから、この研究はスタートしました。つまり、しっぽが私に新しい気づきをくれたのです。文系、理系などという既存の枠組みにとらわれる必要はなく、広い視野で世界を見渡すことで見えてくる気づきにこそ、研究する者の醍醐味であるワクワクが潜んでいると思います。」
詳しい研究内容について
日本書紀は古代のカルテ?!―歴史書からひもとく古代日本の先天異常症例―
研究者情報
研究者名:東島 沙弥佳
研究者名:山田 重人