新型コロナウイルスのパンデミックが小児の身体的健康に影響 ~学校健診データの分析から、肥満・やせ・視力低下は増加傾向~

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2024-05-28 国立成育医療研究センター

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の社会医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室の大久保祐輔室長らの研究チームは、一般社団法人 健康・医療・教育情報評価推進機構(HCEI)が提供する約40万人分の学校健診情報(SHRデータベース)を用いて、新型コロナウイルスのパンデミック(以下、パンデミック)による環境の変化が、子どもたちの身体的健康にどのような変化をもたらしたかを調べる研究を行いました。(※但し、以下の結果は、統計モデルの誤設定や交絡因子等のバイアスによる影響を完全に除外できたわけではなく、因果関係を断定できるものではありません。)
本研究は、パンデミック前(2019年)と、パンデミック期間(2020年、2021年、2022年)の3年間のデータを比較することで、分析しています。その結果、「小児の肥満」は、2020年~2022年の3年間にかけて、パンデミックによる影響と思われる増加がみられることが明らかになりました。
また、「小児のやせ」は2022年度(パンデミック3年目)のみ、男女ともにパンデミックによる影響と思われる増加がありました。

新型コロナウイルスのパンデミックが

さらに、「視力低下」は男女ともに2020~2021年(パンデミック1~2年目)にパンデミックによる影響と思われる増加がありました。男子のみ、2022年(パンデミック3年目)にも増加傾向が続いていました。一方「未治療の虫歯」は、パンデミック前(2019年)と比較して、2022年に男女ともパンデミックによる影響と思われる減少傾向が分かりました。また、「血尿」については、パンデミック期間中の3年間を通して、パンデミックが影響と考えられる増加は見られず、むしろ血尿のある生徒が少ない傾向でした。
本研究の成果は、小児肥満分野の学術誌Pediatric Obesityに論文として掲載されました。
※本研究の内容はすべて著者らの意見であり、厚生労働省の見解ではありません。

新型コロナウイルスのパンデミックが

<グラフの見方>
●マークは、それぞれの項目の増加率を表しています。●マークにある縦棒は、増加率の95%信頼区間(エラーバー)で、エラーバーが0.0%をまたいでいない場合に統計学的な有意差があったと考えます。

プレスリリースのポイント

  • 一般社団法人 健康・医療・教育情報評価機構(HCEI)が提供する学校健診情報(SHRデータベース)を活用し、2007年から2022年の16年間にわたる小・中学生約40万人分のデータを用いました。
  • 「差分の差分法(Difference-in-Differences)[1]」を用いて、新型コロナウイルスのパンデミックによる環境の変化が、小・中学生の身体的健康に影響を与えたかどうかを推定しました。
  • パンデミック前(2019年)と、パンデミック期間(2020年、2021年、2022年)を比較して分析してます。
  • 「小児の肥満」は、2020年~2022年の3年間おいてパンデミックによる影響と思われる増加が見られ、2022年には0.42%増加(男子は0.49%増加、女子は0.36%増加)していました。
  • 「小児のやせ」は、パンデミック3年目(2022年)に0.28%増加(男子は0.21%増加、女子は0.34%増加)しました。
  • 「視力低下」は、パンデミック開始後の2年間(2020年、2021年)は男女ともに増加していました。男子のみ2022年もパンデミックの影響が続き、1.9%増加していました。
  • 未治療の「虫歯」は、パンデミック3年目(2022年)に1.48%減少していました(男子は1.13%減少、女子は1.83%減少)。
  • 血尿が陽性となる生徒は減少し、パンデミック3年目に0.43%減少していました(男子は0.54%減少、女子は0.32%減少)。

[1] 差分の差分法(Difference-in-Differences):計量経済学や社会学などで用いられる、統計手法。ある事象(本研究の場合は、新型コロナウイルスのパンデミック)があった群を介入群、なかった群を対象群として、それらを比較することで、その事象の効果・影響がどれくらいあったのかを推定するもの。介入群での事象の前後での差(差分➀)から、対象群での事象の前後での差(差分➁)を引くこと(差分➀―差分➁)で分析していく。2つの差分の差を求めることから、「差分の差分法」と言われている。

研究概要

使用データ:一般社団法人 健康・医療・教育情報評価推進機構(HCEI)が提供する学校健診情報(SHRデータベース)
対象データ:2015年度~2022年度に中学校を卒業した子ども約40万人分の、小学1年生~中学3年生時の学校健診データ約350万件
対象データ項目:性別、身長、体重、視力(矯正なし、あり)、虫歯の治療状況、尿検査
分析内容:対象データから、学校健診の項目を抽出し、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響を差分の差分法(Difference-in-Differences)を用いて分析。
定義について
肥満・やせ:WHOの基準をもとにBMI(体格指数)のZスコアを出し、標準偏差が+2となる場合を肥満、-2となる場合をやせとしました
視力不良:視力が1.0未満の場合
未治療の虫歯:治療を行っていない虫歯がある場合
血尿:尿潜血検査が1+以上の場合

発表論文情報

題名(英語):Impact of COVID-19 pandemic on physical health amongst children: Difference-in-differences analyses of nationwide school health checkup database
著者名:大久保祐輔1、石塚一枝2、後藤温3
所属
1) 国立成育医療研究センター社会医医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室(*責任著者)
2) 国立成育医療研究センター社会医医学研究部
3) 横浜市立大学データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻
掲載誌:Pediatric Obesity
DOI:10.1111/ijpo.13126

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本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

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