後天的なY染色体の喪失機構~DNAデータより細胞老化とがん化につながる現象の解明へ~

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2019-10-17 理化学研究所,東京大学,日本医療研究開発機構

理化学研究所(理研)生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダー、鎌谷洋一郎客員主管研究員(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)らの国際共同研究グループは、男性の性染色体であるY染色体を喪失した細胞が血中に増加する現象(mLOY)における遺伝機構や重要な血液細胞の分化段階、転写因子などを明らかにしました。

今回、国際共同研究グループは、バイオバンク・ジャパン[1]の男性登録者95,380人のDNAマイクロアレイ[2]データを解析しました。その結果、ヨーロッパ系人種で見られる加齢や喫煙によるmLOYの発生が日本人でも確認され、さらにmLOYを起こりやすくする31の関連遺伝領域(日本人独自のものを含む)を新たに同定しました。また、遺伝統計学的な解析を行ったところ、造血幹細胞にmLOY関連シグナルの集積が見られ、特に強くシグナルの集積が見られる血球分化の初期細胞を同定しました。さらに、mLOYにおいて重要な役割を果たす転写因子[3]FLI1を同定し、mLOYのマーカーとなりうる指標も同定しました。そして、54,887人のデータを用いてmLOYと疾患の関連を解析した結果、総死亡率やがんの死亡率の上昇とmLOYとの明確な関連は認められませんでした。

本研究成果は、加齢に伴う染色体変化やがんの発生機構の解明に向けた基礎医学とY染色体喪失を予測する臨床医学の進歩に貢献すると期待できます。また、DNAマイクロアレイデータは、全世界で数百万人以上の規模で存在し、これまでそのシグナル情報は生まれつきの変異の同定にのみに使われてきました。今回、このデータには後天的な染色体変化の情報が含まれていることが明確になり、そのメカニズムの一端を解明できました。今後、既に利用可能なこれらのシグナル情報を集約させることによって、日本人に特有な機構を含む詳細なmLOYの機構が解明され、老化やがん化のメカニズムの解明につながると期待できます。

本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(10月17日付け)に掲載されます。

※国際共同研究グループ
理化学研究所
生命医科学研究センター
ゲノム解析応用研究チーム

チームリーダー 寺尾 知可史(てらお ちかし)

(静岡県立総合病院 臨床研究部 免疫研究部長、静岡県立大学 薬学部 ゲノム病態解析講座 特任教授)

客員主管研究員 鎌谷 洋一郎(かまたに よういちろう)

(東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 複雑形質ゲノム解析分野 教授)

客員研究員 秋山 雅人(あきやま まさと)

(九州大学 医学部 眼科 特任講師)

客員研究員 石垣 和慶(いしがき かずよし)

(米国ハーバード大学 ポスドクフェロー)

基盤技術開発研究チーム

チームリーダー 桃沢 幸秀(ももざわ ゆきひで)

免疫器官形成研究グループ

リサーチ・アソシエイト 椙下 紘貴(すぎした ひろき)

統合生命医科学研究センター(研究当時)

副センター長 久保 充明(くぼ みちあき)

医科学イノベーションハブ推進プログラム      
健康データ数理推論チーム

チームリーダー 川上 英良(かわかみ えいりょう)

(理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム 健康医療データ AI予測推論開発ユニット・ユニットリーダー、  千葉大学大学院医学研究院 人工知能(AI)医学・教授 治療学人工知能(AI)研究センター・センター長)

東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 クリニカルシークエンス分野

教授 松田 浩一 (まつだ こういち)

東京大学医科学研究所

ヒトゲノム解析センター シークエンス技術開発分野(研究当時)

特任助教 平田 真(ひらた まこと)

癌・細胞増殖部門 人癌病因遺伝子分野

教授 村上 善則(むらかみ よしのり)

情報・システム研究機構 ライフサイエンス統合データベースセンター

特任研究員 大田 達郎(おおた たつろう)

ブリガムアンドウィミンズ病院 遺伝学分野

助教 ポールー・ロー(Po-Ru Loh)

ハーバード大学 遺伝学分野

研究員 ジウリオ・ジェノヴェーゼ(Giulio Genovese)

ケンブリッジ大学 MRC疫学分野

助教 ジョン・ペリー(John R.B Perry)

※研究支援

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)のオーダーメイド医療の実現プログラム「疾患関連遺伝子等の探索を効率化するための遺伝子多型情報の高度化(研究開発代表者:久保充明)」の支援のもと行われました。本研究で使用したサンプルは、「オーダーメイド医療の実現プログラム」において収集されたものです。

背景

ヒトは22対の常染色体と1対の性染色体を持っており、女性の性染色体はXXで、男性の性染色体はXYです。男性特有の性染色体であるY染色体は、X染色体に比べて短く、遺伝子の数も少ないという特徴があります。

ヒトの体は、受精後に細胞分裂を繰り返し、生殖細胞の一部以外は基本的に同じDNA配列を持った細胞で構成されます。しかし、以前よりY染色体を喪失した細胞がしばしば見られることが知られており(主に血中に)、これを「Y染色体を喪失した細胞とY染色体を維持した細胞がモザイクとなった状態(mosaic loss of chromosome Y[mLOY]) といいます。そして、mLOYは加齢や喫煙に強く相関しており、加齢や喫煙に伴ってY染色体が喪失した細胞が増えることが分かってきました。

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