サンゴは海を読んで産卵時期を調節する~水族館の「お宝データ」で挑むサンゴ同調産卵の謎~

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2024-05-29 東京大学

発表のポイント

◆水族館が所持する、世界でも稀な15年間にわたる記録データを活用し、サンゴの産卵行動の謎に迫りました。
◆サンゴが繁殖する上で非常に重要な産卵時期の微調整に、直近の水温や降雨量・日射量が影響していることを世界で初めて明らかにしました。
◆今回の成果は水族館が持つリソースの活用が肝となりました。今後、研究におけるデータプロバイダーとして水族館が新たな役割を発揮することで、大学をはじめとする研究機関との学融合の発展に期待が高まります。

サンゴは海を読んで産卵時期を調節する~水族館の「お宝データ」で挑むサンゴ同調産卵の謎~

ミドリイシ属サンゴの産卵

発表概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻の丸山真一朗准教授らの研究グループは、水族館の半野外水槽におけるミドリイシ属サンゴ(造礁サンゴのなかま)の産卵パターンの解析をし、複数の環境情報が産卵ピーク時期の微調整に寄与することを示しました。

サンゴの同調産卵は、初夏の満月の前後でサンゴが配偶子を一斉に放出する、世界で最も壮大な繁殖イベントの1つです。これまで野外では、産卵月直前の水温が高いほど、ミドリイシの産卵時期が全体的に早まることが知られていましたが、水族館でも同様の傾向が見られることが確認されました。さらに、直近の水温が高く、降雨量、日射量が大きいほど、産卵のピークが前倒しになり、早めに産卵する個体が増えることも示されました。サンゴ集団内における産卵日のばらつきまで含めた産卵ピークの微調整については野外での観察が困難であり、水族館における長期記録によって初めて、ミドリイシ属サンゴの環境に応じた産卵戦略の一端が明らかになったと言えます。

本研究成果は、サンゴの繁殖の仕組みをより深く理解する上で重要な発見であるだけでなく、水族館が科学の発展にもたらす可能性の大きさを示しています。

発表内容

サンゴ礁を形成する造礁サンゴのなかまは、初夏の満月の前後に配偶子を一斉に放出する「同調産卵」という現象で知られています。この現象は、世界で最も壮大な繁殖イベントの1つとも言われ、多くの研究者や自然愛好家の興味を集めてきました。しかし、数10年にわたる研究にもかかわらず、どのような環境要因によって同調的な産卵のタイミングが制御されているのかについては、よく分かっていませんでした。その一因として、野外のサンゴ礁における繁殖活動の長期的な観測が困難であることが挙げられ、キクメイシなど少数の例(関連情報①)を除いて同調産卵に対する環境要因の影響については不明な点が多く残されていました。

本研究では、世界中のサンゴ礁で代表的な造礁サンゴであるミドリイシ属に着目し、沖縄美ら海水族館の半野外水槽(図1)で記録された15年間という長期に及ぶミドリイシ属サンゴの産卵データを利用し、サンゴの産卵行動の全体的なパターンを把握することから始めました。そして、産卵時期と環境条件の変化がどのように関連しているのかを分析しました。

図1沖縄美ら海水族館のサンゴ水槽と産卵ピーク調整の模式図.png図1:沖縄美ら海水族館のサンゴ水槽(左)と産卵ピーク調整の模式図(右)
水族館のサンゴ集団の解析から、産卵時期は直近の水温や降雨量などの環境要因により微調整されることが示された。(写真提供:野中正法博士)


これまで野外では、ミドリイシの産卵時期は産卵月直前の水温が高いほど早まることが知られていました(関連情報②)。しかし、野外で長期間にわたって、毎日、個体ごとの産卵行動を観察し続けることは非常に困難です。報告された産卵日が、集団全体の産卵行動の中で、どのあたりのタイミングに相当するのかを判断することも容易ではありません。

沖縄美ら海水族館では、半屋外水槽の毎日の水温と水槽内で飼育されているミドリイシ属サンゴ(主にトゲスギミドリイシ)の産卵行動が15年間という長期間にわたり克明に記録されていました。その結果、水族館集団は野外集団と非常に近いタイミングで産卵行動を行なっていたことが分かり、水族館という環境でも自然界と同様の同調産卵が起こっていることが分かりました。また、水族館のミドリイシ集団では、実際の産卵行動は単一の日に見られるのではなく、ある程度ばらついて起こり、産卵行動が最も多く見られる時期を「産卵ピーク」として捉えることができること、そのピーク時期も年ごとに異なるという、長期にわたる全体的なパターンを確認することができました。さらに、これまで野外で報告されてきた「産卵日」は、水族館集団における「産卵開始日」よりも「産卵ピーク日」に近いことが分かり、水族館では自然界では観察が困難な小規模な産卵行動まで詳細に観測できるメリットがある可能性も示唆されました。

さらに、これらのローカルな産卵行動の記録と、気象衛星や気象台により提供されるグローバルな環境要因の情報とを統合し、水族館集団における産卵行動パターンと、環境条件とがどのように関連しているのかを解析しました。その結果、前述のように、野外では産卵月直前の水温が高いほど産卵時期が早まることが知られていましたが、水族館でも同様の傾向が見られることが確認されました。さらに、直近の海水温が高かったり、降雨量や日射量が大きかったりするほど、産卵のピークも早まる傾向があることが分かり、集団中で早めに産卵する個体の割合が増えることも示唆されました。これらの成果は、ミドリイシの産卵が周囲の環境条件の変化に合わせて微調整されていることを示しています。こうした微調整は、集団全体での産卵同調性、ひいては繁殖成功率を高めることに寄与しているかもしれません。

野外におけるサンゴの調査や観測が重要であることは言うまでもありませんが、技術的な困難が伴うこともしばしばあります。本研究は、野外での観察が困難だったサンゴ集団内における産卵日のばらつきまで含めた産卵行動の全容の把握に成功し、産卵ピークが環境条件によって微調整されることを明らかにしました。これは、水族館における長期記録によって初めて可能となったものであり、水族館の持つリソースが基礎研究にもたらすインパクトの大きさを改めて示す、新しい学融合の形と言えます。

〇関連情報:
①琉球大学プレスリリース「サンゴの同調産卵の合図を世界で初めて明らかに~日没から月の出までの「光のギャップ」が同調産卵の合図だった~」(2021/08/10)
https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/26432/

②東北大学プレスリリース「サンゴは環境変化に合わせて産卵日を選ぶ 海水温や風速などの環境要因が同調的な産卵行動に与える影響を解析」(2020/01/22)
https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/date/detail—id-49178.html

<研究助成>
本研究は、科学研究費補助金(課題番号:19K06786、22H02697)、日本学術振興会特別研究員奨励費(課題番号:20J01841)の支援により実施されました。また、沖縄美ら島財団総合研究センターとの共同研究により行われました

発表者・研究者等情報

東京大学大学院新領域創成科学研究科
丸山 真一朗 准教授

論文情報

雑誌名: Royal Society Open Science
題 名:Long-term aquarium records delineate the synchronized spawning strategy of Acropora corals
著者名: Yusuke Sakai, Hiromi H. Yamamoto, Shinichiro Maruyama*
DOI:10.1098/rsos.240183
URL: https://doi.org/10.1098/rsos.240183

お問い合わせ

新領域創成科学研究科 広報室

生物環境工学
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