2024-06-04 東京大学
発表のポイント
◆オートファゴソームが完成すると、分解酵素を含んだリソソームと融合できるようになりますが、どのようにして未完成(未閉鎖)オートファゴソームと完成(閉鎖)オートファゴソームが見分けられているかは不明でした。
◆完成したオートファゴソームの膜はより強い負電荷を帯びており、それによってリソソームとの融合に必要な因子(シンタキシン 17)が呼び寄せられることを分子生物学的実験手法とシミュレーションを組み合わせることで明らかにしました。
◆細胞小器官の性質が膜の電荷変化によって時空間的に制御されるという今回の発見は、オートファゴソーム以外の細胞内構造体にも拡張される概念となることが期待されます。
概要
東京大学大学院医学系研究科の水島昇教授らの研究グループは、オートファジー(注1)を実行するオルガネラであるオートファゴソーム(注 2)と分解酵素を含んだリソソームとの融合の仕組みの一端を明らかにしました。リソソームは完成(閉鎖)したオートファゴソームと融合します。リソソームとの融合に必要な因子であるシンタキシン 17(注 3)は、閉鎖したオートファゴソームにだけ呼び寄せられることがすでに知られています。しかし、シンタキシン 17 がどのようにして未完成(未閉鎖)オートファゴソームと完成オートファゴソームを見分けているかは不明でした。今回、シンタキシン 17 はカルボキシ末端領域に正電荷アミノ酸を多数持ち、この正電荷アミノ酸がシンタキシン 17 のオートファゴソームへの局在に必要であること、シンタキシン 17 は負電荷脂質膜を嗜好することを見出しました。そこで、実際にオートファゴソーム膜が負電荷を持っているかどうかを調べたところ、オートファゴソームの形成後期に膜が強い負電荷を帯びることがわかりました。さらに、この負電荷は負電荷脂質であるホスファチジルイノシトール 4-リン酸(PI4P)(注 4)の蓄積によることが示唆されました。また、シンタキシン 17 のオートファゴソーム膜への局在がオートファゴソーム膜上の PI4P の量によって制御されうることを試験管内実験と分子動力学シミュレーション(注 5)によって明らかにしました。以上の結果から、細胞はオートファゴソームの完成をその膜の電荷変化によって認識していることが示唆されました。本研究結果は、細胞小器官の膜電荷の経時変化がその機能を変化させるという概念を提唱するものであり、この概念はその他の細胞内構造体についても当てはまる可能性が期待されます。本研究成果は、6 月 4 日に国際科学誌「eLife」に最終版(Version of Record)として掲載されました。