思春期におけるインターネットの不適切使用が精神病症状および抑うつのリスクを高めることを確認

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2024-06-03 東京都医学総合研究所

当研究所 社会健康医学研究センター 西田淳志 センター長と国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成田瑞 室長、東京大学 大学院医学系研究科 笠井清登 教授(同大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)、安藤俊太郎 准教授らの研究グループは、思春期におけるインターネットの不適切使用が精神病症状(幻覚や妄想のような体験)および抑うつといったメンタルヘルス不調のリスクを高めることを確認しました。さらに、インターネットの不適切使用による抑うつのリスクは女性の方が大きいこと、また、精神病症状のリスク上昇は社会的ひきこもりを介して起こることも示唆されました。

ここでいう不適切使用とは、インターネット使用によりイライラする、学業・家族や友人関係・睡眠などに支障が出る、時間を使い過ぎる、使い始めるとやめられない、他の人と過ごすよりインターネットを好む、周囲の人間から見て使用時間を減らした方が良い、などの状態を指します(インターネット使用そのものがリスクを高める、という結果ではありません)。インターネットは現代の生活に欠かせないツールですが、このような関わり方を続けた場合はメンタルヘルス不調のリスクを高めることが因果関係を検証できる厳密なデータ解析で示されました。メンタルヘルス不調を経験する前に使用を控えるよう、親や学校など周囲の大人がこのようなリスクを認識し、適切なサポートを提供する、などの対策が重要と考えられます。

本研究成果は『Schizophrenia Bulletin』に日本時間2024年6月3日にオンライン出版されました。

<論文タイトル>
“Association of Problematic Internet Use with Psychotic Experiences and Depression in Adolescents: A Cohort Study”
(思春期におけるインターネットの不適切使用と精神病症状および抑うつとの関連:コホート研究)
<発表雑誌>
Schizophrenia Bulletin
DOI:10.1093/schbul/sbae089
URL:https://doi.org/10.1093/schbul/sbae089

研究の背景

インターネットの不適切使用は思春期にしばしば見られる問題です。過去の研究ではインターネットの不適切使用とメンタルヘルス不調の相関は示唆されていましたが、「因果関係」を説明できるような研究成果はほとんどありませんでした。そこで本研究では、因果関係を示せるような厳密なデータ解析を行い、思春期におけるインターネットの不適切使用がメンタルヘルス不調のリスクを高めるかどうかを調査しました。

研究成果

2002年から2004年に生まれた未成年3171人を10歳、12歳、および16歳の3点で評価したデータを用いました。10歳、12歳、16歳時点でのインターネットの不適切使用と、16歳時点での精神病症状および抑うつとの関連を、g-formulaという厳密な因果推論の手法を用いて調べました。また性別によってメンタルヘルス不調の経験に差があることから、男女差も調べました。さらに、インターネットの不適切使用とメンタルヘルス不調との関連における、社会的ひきこもりの役割を因果媒介分析という手法で調べました。解析時には年齢、性別、BMI、知能指数、親の年収、近隣環境などの影響を取り除くよう、統計学的に調整しました。さらに、ベースライン時点でメンタルヘルス不調があった人を除外しました。これにより因果の逆転(つまりメンタルヘルス不調がインターネットの不適切使用の原因という可能性)を厳密に防ぐことに留意しました。

上記の因果推論の手法を用いた結果、インターネットの不適切使用が、精神症状と抑うつのリスクを高めることが示されました。例えば12歳時におけるインターネットの不適切使用は、16歳時の精神病症状を1.65倍、抑うつを1.61倍に増加させました。男女差を見ると、抑うつのリスクは女性の方が大きく加算されました。またインターネットの不適切使用と精神病症状の関連のうち、9.4%~29.0%は社会的ひきこもりによって媒介されていました。

図

この研究が社会に与える影響

インターネットは現代人の生活に欠かせないツールであり、とりわけ若年者は使用時間が長いことが示されています。一方でその便利さや楽しさとは裏腹に、本研究で示されたようなリスクも認識しておく必要があると考えられます。メンタルヘルス不調を経験する前に使用を控える、親や学校がこのようなリスクを認識し適切なサポートを提供する、などの対策が重要と考えられます。

本研究の主な助成事業

本研究は日本学術振興会(JP20H01777、JP20H03951、JP21H05171、JP21H05173、JP21H05174、JP21K10487、JP22H05211、JP23H03174、JP23H05472、JP24H00666、JP24H00917、JP24K16821)、東京大学(UTIDAHMおよびWPI-IRCN)、およびJST(JPMJPF2105)の支援を受けて行われました。

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