2024-07-26 国立遺伝学研究所
RNAとタンパク質で構成されるRNA顆粒は、ストレス刺激などに応答してダイナミックに離合集散する細胞内構造体として知られています。代表的なRNA顆粒のひとつとして、動物の生殖細胞運命を決定する生殖顆粒の研究が進んでいます。しかし、植物の生殖細胞発生に寄与するRNA顆粒の報告はほとんどありませんでした。
植物細胞遺伝研究室の三村真生研究員(現在は東京大学大学院助教)と野々村賢一准教授らの研究グループは、減数分裂への適切な移行タイミングを制御するイネRNA結合タンパク質MEL2が、(1) 減数分裂移行前の生殖母細胞で細胞質RNA顆粒(MEL2顆粒)を形成し、ストレス環境下でRNA代謝を司るストレス顆粒やmRNA分解・翻訳制御に関わるPボディ顆粒と共局在すること、(2) その後MEL2顆粒が適切に消去されることが減数分裂の正常な進行に不可欠なこと、(3) 顆粒の形成・消失に重要なMEL2機能ドメインを明らかにしました(図)。
イネMEL2と類似の構造をもつタンパク質(MEL2L)は多くの陸上植物で保存されており、ゼニゴケやヒメツリガネゴケのMEL2Lは減数分裂を行う胞子体で特異的に発現していました。陸上植物の祖先といわれる車軸藻類でも保存されていたことから、MEL2が陸上植物の生殖進化に重要な役割を果たした可能性が推察されました。
本研究は、学術振興会科研費、遺伝研共同研究事業(NIG-JOINT)、遺伝研博士研究員制度、学術振興会特別研究員制度(PD)の支援を受けて実施しました。
図:MEL2機能ドメインの顆粒形成における役割
(a) MEL2ゲノム配列と蛍光タンパク質GFPの融合遺伝子(FL)、および各機能ドメインに欠失(点線)・塩基置換(星印)が入った変異型MEL2融合遺伝子の構造。
(b) (a) を導入した形質転換イネの生殖母細胞質でみられるMEL2顆粒(緑)。減数分裂前(0.3-0.4mm葯)に形成される正常型MEL2顆粒は、減数分裂期(0.5mm葯)に入ると消失するが(FL)、mRING型MEL2は顆粒を形成できず、∆LOTUSおよび∆IDRは顆粒が減数分裂期まで持ち越され、減数分裂進行や花粉形成に異常をきたす。
Impact of protein domains on the MEL2 granule, a cytoplasmic ribonucleoprotein complex maintaining faithful meiosis progression in rice.
Manaki Mimura, Seijiro Ono, Harsha Somashekar, Ken-Ichi Nonomura
New Phytologist 2024 Jul 24. DOI:10.1111/nph.19968