脳の異常興奮を引き起こすグリア物質の発見

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2024-08-09 九州大学

薬学研究院 津田 誠 教授

脳の異常興奮を引き起こすグリア物質の発見

概要

山梨大学 大学院総合研究部 医学域(医学部薬理学講座及び山梨GLIAセンター)の小泉修一教授及び繁冨英治教授の研究チームは、脳の異常興奮を引き起こすグリア物質を発見しました。本研究は繁冨英治教授と鈴木秀明氏(研究当時、山梨大学医学科学生)を中心として実験を実施しました。また、本研究には九州大学 大学院薬学研究院 津田誠教授、山梨大学 大学院総合研究部 医学域 木内博之教授、慶應義塾大学 医学部 先端医科学研究所 脳科学研究部門 田中謙二教授、東京大学 大学院医学系研究科 尾藤晴彦教授らが協力しました。
さまざまな脳の疾患で、神経細胞が過剰興奮することにより、神経細胞の異常・脱落・変性などが起こることが知られています。これらの変化を引き起こす原因の一つとしてグリア細胞(※1)の役割が注目を集めています。この度、脳の異常興奮(神経過興奮)を引き起こすグリア物質として「IGFBP2(※2)」を見出しました。
アルツハイマー病、てんかん、脳卒中などのさまざまな脳疾患において、グリア細胞の一種「アストロサイト(※3)」は共通してP2Y1受容体(※4)を発現上昇させて「疾患関連アストロサイト」となります。しかし、P2Y1受容体を高発現するアストロサイト(疾患関連アストロサイト)がどのようにこれらの脳疾患と関与しているのかについては殆どわかっていませんでした。今回の研究ではP2Y1受容体を強制的に高発現させた人工的な疾患関連アストロサイトを有するマウスを作成し、1) 疾患関連アストロサイトが産生・分泌する新規グリア物質IGFBP2を見出し、2) これにより神経過興奮が起こることを見出しました。更に、実際のてんかんや脳梗塞などの複数の脳疾患モデルにおいて、IGFBP2が疾患関連アストロサイトで高発現していることを見出しました。
本研究成果は日本時間2024年8月8日のNature Communications誌(オンライン版)に掲載されました。

用語解説

(※1)グリア細胞
グリア細胞は、中枢神経系に常在する非神経細胞であり、主にアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアから構成される。神経細胞のように電気的な興奮性は示さない。神経細胞を物理的に支持するだけでなく、脳の発達、神経活動の機能維持・調節、脳内環境の恒常性に関与している。脳の健康を保つために神経細胞とグリア細胞は相互に協調しながら働く。炎症や傷害などの内部環境の変化や環境物質などによって大きな変化を示す。

(※2)IGFBP2
インスリン様成長因子結合タンパク質の一つ。IGFBP2はアストロサイトを豊富に発現する分泌性タンパク質。その作用標的としてインスリン様成長因子と、その受容体が知られている。最近の研究により、神経発達や記憶メカニズムにも関わることが明らかになっている。

(※3)アストロサイト
アストロサイトはグリア細胞の一種。脳組織全般に存在し、神経細胞の物理的支持、栄養代謝供給、神経機能調節など、脳の生理機能維持を担う。脳外傷、脳卒中、てんかん、中枢神経感染症、神経変性疾患などのさまざまな病態時において反応性アストロサイトとなり、その形態・性質を変化させることで、病態において重要な役割を果たす。

(※4)P2Y1受容体
細胞外ATPあるいはADPによって活性化される受容体の一つ。アストロサイトのみならず、神経細胞やミクログリアにも発現している。病態のみならず脳の発達にも寄与する重要な分子の一つ。活性化されると細胞内Ca2+濃度が増加する。アルツハイマー病、脳梗塞、てんかんなどのさまざまな脳疾患においてアストロサイトのP2Y1受容体及びP2Y1受容体を介したシグナルが上昇することが知られている。

論文情報

論文タイトル:Disease-relevant upregulation of P2Y1 receptor in astrocytes enhances neuronal excitability via IGFBP2
著者名: Eiji Shigetomi*#, Hideaki Suzuki#, Yukiho J. Hirayama, Fumikazu Sano, Yuki Nagai, Kohei Yoshihara, Keisuke Koga, Toru Tateoka, Hideyuki Yoshioka, Youichi Shinozaki, Hiroyuki Kinouchi, Kenji F. Tanaka, Haruhiko Bito, Makoto Tsuda & Schuichi Koizumi*. *責任著者。#共同筆頭著者。
掲載誌:Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-024-50190-7

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薬学研究院 津田 誠 教授

医療・健康
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