体に負担をかけずに移植細胞を追跡する技術および移植細胞の細胞機能を定量的に評価する方法の開発

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2024-09-05 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)分子薬理部の大谷健太郎 研究室長、弘前大学大学院理工学研究科の銭谷勉教授、川崎医科大学の犬伏正幸准教授、フィンランド トゥルク大学 トゥルクPETセンターの飯田秀博教授らの研究チームは、生体に移植された細胞を時間・空間的に追跡し、移植後の細胞機能を定量的に評価するSPECT技術(注1)を開発しました。
本研究成果は2024年8月29日に、欧州核医学会の専門誌「European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imging(オンライン版)」に掲載されました。

■背景

近年、組織再生を目的とした様々な細胞移植医療の研究開発が行われています。循環器領域においては、ヒト人工多能性細胞(iPS細胞)から心筋細胞を作製し、シート状(細胞シート)や小さなかたまり(心筋球)に加工して虚血性心疾患に伴う重症心不全患者さんに移植する治験(注2)が進められています。細胞移植医療開発において、組織修復に最適な移植細胞およびその移植方法の開発は広く進められていますが、臓器局所に移植あるいは全身に投与された細胞が移植後にどのように体内に分布しているかや、移植された細胞がどこにどのくらいの期間に亘って体内で生存しているかを画像診断で評価する方法は意外に少ないのが現状です。

■研究手法と結果

我々は、移植部位の細胞と区別して移植細胞を追跡できるようにするために、全身にヒト ナトリウム/ヨウ化物共輸送体(NIS、注3)を発現するマウス(NIS-Tgマウス)を作製しました(図1)。NIS発現細胞は、パーテクネテート(注4)を取り込むため、SPECT検査で検出することができます。NISを発現していないマウス(野生型マウス)とNIS-Tgマウスから胎児線維芽細胞(MEF、注5)をそれぞれ分離・培養し、シート状に3層に積み重ねたMEF細胞シートを作成して、心筋梗塞を起こして2週間経過した別々のラットの心臓に移植しました。野生型MEF細胞シート(コントロール群)とNIS-Tg MEF細胞シートを移植した心筋梗塞ラットにパーテクネテートを投与し、SPECT検査にてNISを発現した移植細胞の追跡が可能かを検討しました。最後に、得られたSPECT画像から、移植した細胞シートの生存性を反映する細胞機能の指標が算出可能か検討しました。
その結果、野生型マウスのMEFシートはSPECTで検出することはできませんでしたが、NISを発現するマウスのMEFシートにはパーテクネテートが取り込まれることが確認できました。移植後約2週間にわたってSPECTで追跡することが可能でした(図2A)。また、NISを発現する細胞を用いることにより、細胞機能の指標であるパーテクネテートの移行速度定数(K1)および分布容積(VT)の時間の経過による変化を観察することができました(図2B)。この結果から、移植細胞にNISを発現させることにより、パーテクネテート投与によるSPECT検査にて移植後の細胞機能を長期に亘って評価することが可能であると結論できました。

■今後の展望

本研究で確立した技術は、移植する細胞へNIS遺伝子を導入する必要がありますが、基本的には現在開発中の様々な細胞移植医療への応用が可能だと考えられます。また、SPECTは日常診療で行われている検査であるため、将来的に本技術の臨床応用が期待されます。

■発表論文情報

著者: Kentaro Otani, Tsutomu Zeniya, Hidekazu Kawashima, Tetsuaki Moriguchi, Atsushi Nakano, Chunlei Han, Shunsuke Murata, Kunihiro Nishmura, Kazuhiro Koshino, Kenichi Yamahara, Masayuki Inubushi, Hidehiro Iida
題名: Spatial and temporal tracking of multi-layered cells sheet using reporter gene imaging with human sodium iodide symporter: a preclinical study using a rat model of myocardial infarction
掲載誌: European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging

■謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

  • 日本学術振興会 科学研究費補助金(26293282)
  • 公益財団法人 循環器病研究振興財団 (12-003)
  • 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 医薬品等規制調和・評価研究事業 (15jm0310001、19mk0101099)
■注釈

注1) SPECT:
放射性医薬品を体内に投与し、放射性医薬品の体内分布や集積を画像化する検査です。

注2) 治験:
人を対象に、「未だ承認されていない薬や医療機器」の安全性や有効性を調べる研究のことです。

注3) ナトリウム/ヨウ化物共輸送体 (NIS):
血液中から細胞内にヨウ素イオンを取り込むために必要な細胞膜に含まれるタンパク質です。

注4) パーテクネテート (99mTcO4):
脳、甲状腺、唾液腺などの疾患の診断に用いられる体内投与用放射性医薬品です。

注5) MEF (Mouse Embryonic Fibroblast):
マウスの胎児から調整される細胞の一種です。

体に負担をかけずに移植細胞を追跡する技術および移植細胞の細胞機能を定量的に評価する方法の開発
図1. 全身にNISを発現するマウス(NIS-Tgマウス)のSPECT画像
野生型マウスに比べ、全身の筋肉に多くのパーテクネテートが集積している

図2. NIS発現細胞シートの時空間的追跡と細胞機能指標の経時的変化
NIS-TgマウスのMEFシートは移植後約2週間程度追跡が可能であり(A)、移植細胞の定量的な動態指標も経時的に算出することができた(B)

【報道機関からの問い合わせ先】

国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室

医療・健康
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