2024-09-18 東京大学,科学技術振興機構
発表のポイント
◆細胞内のさまざまな小器官(オルガネラ)の状態を全体像(ランドスケープ)として一目で直感的に観察・分析できる新しい方法「オルガネラランドスケープ解析法」を開発しました。
◆この方法により、これまで捉えにくかった異なるオルガネラ間の接触や、物質取り込み過程でのオルガネラの変化を理解できるようになりました。
◆未知のオルガネラの発見や、外部環境、感染、薬剤、疾患などが細胞小器官に与える影響の評価など、幅広い目的に使用されることが期待されます。
概要
東京大学大学院医学系研究科の水島昇教授、本田郁子准教授、栗川義峻特任助教らによる研究グループは、多種類の細胞小器官(オルガネラ)(注1)の状態を全体像(ランドスケープ)として一目で理解できる新しい方法「オルガネラランドスケープ解析法」を開発しました。
従来の方法では、細胞内で密集し常に変化しているオルガネラを同時に多種類区別して解析し、その複雑な全体像(ランドスケープ)を定量に理解することは困難でした。本研究では、オルガネラを個別の粒子として分離し、多数の指標で同時に分析した多次元情報を二次元平面に次元圧縮することで、多数のオルガネラのランドスケープを一度に解析できるようになりました(図1)。この新しい方法によって、オルガネラの相互関係や分布が直感的に理解できるようになります。例えば、小胞体とミトコンドリアの接触部位の検出や、細胞が物質を取り込む過程(エンドサイトーシス)における関連オルガネラの経時的変化の包括的な可視化が可能となりました。
この方法で細胞内のオルガネラの全体像を可視化することにより、未知のオルガネラの発見や、さまざまな生理的・病理的条件下でのオルガネラの相互作用や分布などの変化の評価などへの応用が期待されます。
本研究は、2024 年 9 月 18 日(水)午前 3 時(日本時間)に米国科学誌「PLOS Biology」(オンライン)に掲載されました。
図1 オルガネラランドスケープ解析の模式図
培養細胞を用いて4種類以上のオルガネラを蛍光顕微鏡観察しようとすると、オルガネラ同士が密集して存在するため、どのような種類のオルガネラがどのくらい存在するか、すなわちオルガネラのランドスケープを把握するのが非常に困難である。そこで本研究グループは細胞を破砕し、オルガネラをバラバラの粒子状態にすることで分離能を高め、多種類のオルガネラを検出する実験系を開発した。解析の流れを次の模式図で示す。 A.細胞の複数種類のオルガネラ(例えば、細胞膜、小胞体、ミトコンドリア、ゴルジ体、ペルオキシソーム、初期エンドソーム、リソソーム)のオルガネラマーカーをそれぞれ異なる蛍光で標識する。B.その細胞をバラバラにして粒子状態にしたものを、顕微鏡で撮影する。C.画像上の1つ1つの粒子について、各オルガネラマーカーの蛍光強度(≒存在量)から多次元データを取得する。D.これを二次元平面上へ次元削減法によって埋め込み(反映し)、オルガネラランドスケープを表現することができる。スケールバーは 20 μm。