~将来の感染症ワクチン開発への幅広い応用の可能性~
2024-10-01 京都大学
秋吉一成 医学研究科特任教授、MOI MENG LING 東京大学教授、池田裕明 長崎大学教授、村岡大輔 愛知県がんセンターユニット長、原田直純 ユナイテッド・イミュニティ株式会社代表取締役会長らによる研究グループは、今回、新型コロナウイルスに対する次世代ワクチンを新たに創製しました。本ワクチンは秋吉特任教授が発明した多糖ナノ粒子「プルランナノゲル(以下「PNG」)」を免疫系指向性の薬剤送達システムとして採用し、新型コロナウイルスのスパイク蛋白の断片をワクチン抗原としています。
マウスを用いた新型コロナウイルスの感染試験では、PNGワクチンの事前投与により体内のウイルス量が有意に低下し、ウイルス感染に対して全例が生存しました。これに対しPNGを用いないワクチンでは、3割近くのマウスがウイルス感染で死亡しました。PNGワクチンの優れた感染防御効果は、PNGがリンパ節内の重要な抗原提示細胞であるマクロファージに受容体依存的にワクチン抗原を送達してキラーT細胞に対する抗原提示を促進することで、ウイルス感染に有効に対応できる良質なキラーT細胞を特に誘導するという作用機序に依ります。
以上の成果は、リンパ節内のマクロファージへのワクチン送達により良質なキラーT細胞を積極的に誘導するという新しいワクチン戦略の可能性を示し、またPNGがこれを実現する理想的な薬剤送達システムであることを示しています。我が国独自の本技術は今後、他の病原性ウイルス、特に将来のパンデミックに対する次世代ワクチン技術として応用展開されると期待されます。本技術のmRNAワクチンへの応用研究も鋭意推進されています。
本研究は日本医療研究開発機構ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業、およびワクチン・新規モダリティ研究開発事業の支援を得て行われました。
本研究成果は、2024年9月18日に、国際学術誌「npj Vaccines」に掲載されました。
PNGワクチンの構造
食品などの添加物として幅広く使われている多糖プルランにコレステロールを修飾したものを出発材料としてPNGを作製する。これにワクチン抗原(ここでは新型コロナウイルスのスパイク蛋白の断片)を搭載することでPNGワクチンが完成。製造工程はシンプルでスケールアップも容易であることから、将来のパンデミックにも対応できるワクチン技術となることが期待される。
詳しい研究内容について
我が国独自のナノ粒子性薬剤送達システムを用いた次世代ワクチンの新型コロナウイルスに対する優れたキラーT細胞誘導と感染防御性能を動物モデルで実証―将来の感染症ワクチン開発への幅広い応用の可能性―
研究者情報
研究者名:秋吉 一成