2024-10-30 国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の豊田一則副院長が国内共同研究代表者を務める国際共同前向き登録研究Reveal LINQ Registryのうち、潜因性脳梗塞(発症原因が不明の脳梗塞)患者を対象にした研究結果を、豊田一則副院長や草野研吾副院長らの研究グループが纏め、英文医学誌「Journal of the American Heart Association」オンライン版に、令和6年10月29日に公表しました。
脳梗塞の原因となり得る潜在性心房細動(一過性に生じるため、通常は見逃してしまう心房細動)の検出頻度が海外と比べて日本人でやや高く、その理由も含めて検討しました。
脳梗塞の原因が心房細動と判明することで、適切な脳梗塞再発予防策を講ずることも出来、潜因性脳梗塞患者への植え込み型ループレコーダーを用いた精査の有用性が示されました。
■プレスリリースのポイント
- 脳梗塞の重要な発症原因である心房細動は、通常の数分間の心電図検査では見つからないことが多く、長時間連続して心電図検査を行なって調べる必要があります。
- 近年、皮下に埋め込んで3年間の持続心電検査ができる、植え込み型ループレコーダーが普及してきました。
- 日本を含む世界12か国で、潜因性脳梗塞患者の「隠れた心房細動」を見つける目的で植え込み型ループレコーダーを用いた検査を行った271例(うち日本人60例)の検査結果を、纏めました。
- レコーダー装着後36か月間の心房細動検出率は28.2%でした。 日本人は全体を通してどのタイミングでも海外の集団より検出率が高く、とくに初めの3~4か月間の検出率が目立って高く見えました。
- 国内患者はレコーダー装着前の脳梗塞原因精査(MRI、MRAなど)の実施頻度が海外より高く、「隠れた心房細動」が疑われる患者を適切に診断して本研究に登録したために、海外に比べて心房細動検出率も高くなったようです。
- 心房細動が見つかった後に抗凝固薬の内服を始める例が多く、レコーダーで心房細動を見つけることで、適切な脳梗塞再発予防を行うことだが出来ると考えられました。
■背景
心房細動は脳梗塞の原因として有名ですが、一過性に出現するため通常の心電図検査だけでは診断に至らないことがあります。近年、植え込み型ループレコーダーと呼ばれるごく小さなセンサー(長さ6cm程度の細い棒状)を胸壁皮下に埋め込んで、最長3年間の心電計記録が出来るようになりました。これを用いて、潜在性心房細動がみつかる機会が飛躍的に増えました。なお、潜在性心房細動の検出率には人種差があるとの報告もありますが、詳しくは分かっていません。
■研究手法と成果
Reveal LINQ Registry (ClinicalTrials.gov NCT02746471)には、日本を含む世界12か国51施設が参加しました。2014年3月から2018年1月にかけて、潜因性脳梗塞や原因不明の失神などの原因となる不整脈を調べるために、植え込み型ループレコーダーのReveal LINQ(メドトロニック社)を植え込んだ1604例を前向きに登録しました。このうち、潜因性脳梗塞患者で研究の組み入れ基準に合致する271例(女性63%、平均年齢61.6歳、うち日本人60例)を用いて今回の研究を行いました。
図1は、レコーダー装着後36か月間の心房細動検出率を示します。検出率は3か月後に6.0%、12か月後に13.6%、18か月後に18.0%、36か月後に28.2%でした。 日本人は全体を通してどのタイミングでも海外の集団より検出率が高く、とくに初めの3~4か月間の検出率が目立って高く見えますが、統計学的な有意差はありませんでした(P=0.58)。
心房細動はとくに高齢者で検出率が高まります。図2は年齢で5つに分けたグループでの心房細動検出率を示しています。とくに70歳以上の集団で検出率が目立って高くなっています。多変量解析(複数の因子に関するデータをもとに、相互関連を分析する統計的技法)でも、年齢が心房細動検出に有意に関連する唯一の要因でした(1歳毎にハザード比 1.05, 95%信頼区間 1.02 – 1.07)。
日本人とそれ以外の集団では、レコーダー挿入前の診療内容にも違いがみられました。たとえば、脳動脈の狭窄を評価するためのMR血管造影(MRIを用いた検査方法の一つ)施行率は両者で91.7%対18.5%と大差があり、頭蓋内動脈狭窄に由来する脳梗塞患者(つまり潜因性脳梗塞ではない)が日本人以外に多く含まれていたのかもしれません。
271例中11例(4.1%)の患者が36か月以内に脳梗塞ないし一過性脳虚血発作(脳梗塞の症候を起こすが数分~数時間で症状が消え、CTやMRIで梗塞病巣が現れない病態)を再発しました。また期間中に心房細動が見つかった患者は、見つからなかった患者よりも抗凝固薬を多く服用し始めていました(64.7%対5.3%)。
■今後の展望と課題
今回の研究結果から、日本人の潜因性脳梗塞患者に植え込み型ループレコーダーを用いることで、潜在性心房細動が見つかる頻度は、海外に比べて比較的高いことが分りました。また日本では脳梗塞の原因を調べる検査をきちんと行っているようで、それらの検査で原因が見つからず「原因が分からない」脳梗塞と診断された場合には、植え込み型ループレコーダーで心房細動を調べることが大事です。心房細動が見つかることで、抗凝固薬での再発予防を適切に行ったり、状況によってはカテーテルアブレーション(カテーテルを用いた不整脈の根治治療)や左心耳閉鎖術(心房細動患者で血栓が生じやすい左心耳という心臓の部位を、カテーテルを介して医療器具で塞ぐ、あるいは外科手術で切除する治療)を行って、脳梗塞の再発をより低く抑えることが、出来るでしょう。
■発表論文情報
著者: 豊田一則、草野研吾、井口保之(東京慈恵会医科大学脳神経内科)、池田隆徳(東邦大学循環器内科)、
奥村 謙(済生会熊本病院不整脈先端治療部門)
題名: Global results of implantable loop recorder for detection of atrial fibrillation after stroke: Reveal LINQ Registry
掲載誌: Journal of the American Heart Association
DOI: 10.1161/JAHA.124.035956
■謝辞
本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
- メドトロニック社
図1: 心房細動検出率:日本と海外の比較
図2: 心房細動検出率:年齢毎の比較
【報道機関からの問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室