生体内の脳の免疫細胞を捉える新しい臨床イメージング技術を確立 〜アルツハイマー病の治療薬開発につながる新たな一歩〜

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2025-01-08 国立長寿医療研究センター

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下 国立長寿医療研究センター)と学校法人 神野学園 岐阜医療科学大学(学長:山岡一清。以下 岐阜医療科学大学)は、生体内の脳の免疫細胞を捉え、アルツハイマー病をはじめとする認知症の治療薬開発につながる、新しい臨床イメージング技術を開発しました。

生体内の脳の免疫細胞を捉える新しい臨床イメージング技術を確立 〜アルツハイマー病の治療薬開発につながる新たな一歩〜

脳内にはミクログリアという免疫細胞があり、脳の「守護者」として働きます。ミクログリアは脳内の異常を感知して、ウイルスや細菌から脳を守るだけでなく、ダメージを受けた神経細胞を修復する手助けも行います。アルツハイマー病では、脳内にアミロイドβが異常に蓄積します。ミクログリアはこのアミロイドβの蓄積の周囲に集まり、これを取り除こうとします。しかし、何らかの原因でミクログリアの機能が損なわれると、アミロイドβの蓄積が進行したり、周辺の神経細胞を傷つけたりすることがわかってきました。そこで、ミクログリアを標的とした治療薬の開発が望まれていますが、その開発に必要な技術として、これまで人において生体内でミクログリアを画像化する技術はありませんでした。
今回、新たに開発したポジトロン放射断層撮影(PET)イメージング製剤である[11C]NCGG401は、人の脳内のミクログリアのみを特定して画像化することが可能です。これは、アルツハイマー病の病態をより深く理解し、新たな薬の開発につながる画期的な成果です。

国立長寿医療研究センター・研究所・認知症先端医療開発センター・脳機能画像診断開発部の小縣綾研究員(岐阜医療科学大学・薬学部薬学科・生物有機化学分野 助教兼任)、木村泰之副部長、加藤隆司部長らの研究チームは、この新規PETイメージング製剤[11C]NCGG401を開発し、若年男性ボランティアを対象とした人で初めて行われる臨床試験(First-in-human試験)を通じて、その安全性と有効性を明らかにしました。

本PETイメージング製剤は、脳内の免疫細胞であるミクログリアに発現するコロニー刺激因子1受容体(CSF1R)に特異的に結合することで、アルツハイマー病などの神経変性疾患の進行に重要な役割を果たすミクログリアの画像化を可能にします。

本研究成果は、2025年1月2日に、核医学分野を代表する専門誌『The Journal of Nuclear Medicine』にオンライン掲載されました。また同誌2月号に誌上掲載される予定です。

研究背景と方法

  • ミクログリアは、脳内の免疫機能を担う重要な細胞で、神経変性疾患の病態生理において中心的な役割を果たします。
  • 本研究チームは、新たなPETイメージング製剤である[11C]NCGG401を開発しました。
  • 本研究では、3名の健康な男性ボランティアに対し全身PETスキャンを行い、[11C]NCGG401投与の安全性を評価しました。
  • さらに、6名の健康な男性ボランティアを対象に脳PETスキャンを実施し、脳内CSF1Rの分布を定量化できるか評価を行いました。

主な研究結果

  • 安全性の確認: 被験者に重大な副作用は認められず、[11C]NCGG401の投与は安全であることが確認されました。
  • 脳透過性の確認: [11C]NCGG401は良好な脳透過性を示し、ピーク時の脳内濃度は全身に均等に分布すると仮定した場合の3倍に達しました。これにより良好な画質と定量性が期待されます。
  • CSF1Rの定量化: PETスキャンデータから得られた定量画像は、脳内の既知のCSF1R分布を反映しており、ミクログリアのイメージングとして有望であることが示されました。

C-11 NCGG401の構造式とPET画像、CSF1Rタンパクとの相関の図

臨床応用の可能性

この結果から、[11C]NCGG401を用いたPETイメージングは、アルツハイマー病におけるミクログリアが関わる病態や薬の効果を評価するためのツールとして、今後の臨床研究や創薬において重要な役割を果たすことが期待されます。

本研究は、文部科学省 科学研究費助成事業 基盤研究(B)(JP21H02876およびJP24K02412)および国立長寿医療研究センターの長寿医療研究開発費(21-43および24-29)の支援を受けて実施されました。

論文情報

Aya Ogata, Hiroshi Ikenuma, Fumihiko Yasuno, Takashi Nihashi, Saori Hattori, Yayoi Sato, Masanori Ichise, Kengo Ito, Takashi Kato and Yasuyuki Kimura. First-in-human study of [11C]NCGG401 for imaging colony-stimulating factor-1 receptors in the brain. J Nucl Med. jnumed.124.268699. https://doi.org/10.2967/jnumed.124.268699

プレスリリース(PDF:319KB)

お問い合わせ先

<この研究に関すること>
国立長寿医療研究センター
研究所 認知症先進医療開発センター
脳機能画像診断開発部 木村泰之

岐阜医療科学大学
薬学部薬学科 生物有機化学分野
小縣綾

<報道に関すること>
国立長寿医療研究センター
総務部総務課 総務係長(広報担当)

有機化学・薬学
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