バイスタンダーCPRの実施は頭打ちになっている?~日本、韓国、シンガポールでの国際比較~

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2025-02-07 京都大学

心肺蘇生(Cardio-pulmonary resuscitation: CPR)は、心停止(心臓が突然止まった状態)の患者に対して胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行う応急処置であり、救命率向上に非常に重要な役割を果たします。これまで、日本やシンガポール、韓国などのアジア各国では、心停止患者に対しその場に居合わせた市民が迅速にCPR(バイスタンダーCPR)を実施できるよう、さまざまな普及・教育活動が行われてきました。

この度、岡田遥平 医学研究科研究員、西岡典宏 同特定講師、木口雄之 同研究員、石見拓 同教授、西山知佳 同准教授、Marcus Ong シンガポール・デューク-NUS医科大学(Duke-NUS Medical School)教授、Ki Jeong Hong 韓国ソウル大学校(Seoul National University)教授、Sang Do Shin 同教授らの国際共同研究グループは、日本、韓国、シンガポールにおけるバイスタンダーCPRの実施割合の10年間の推移を調べました。

その結果、日本、シンガポール、韓国の3カ国で、バイスタンダーCPRの実施割合が10年間で大幅に増加したものの、50~60%前後で停滞していることが確認されました。この傾向は性別、年齢、発生場所に関係なく見られ、社会的・文化的要因や心理的な要因がバイスタンダーCPRの普及における「見えない天井」効果を引き起こしている可能性が示唆されました。また、教育や訓練の普及が進んでいるにもかかわらず、実際のCPR実施割合の改善につながっていないことから、さらなる教育、普及の方策の改善の必要性を浮き彫りにしました。

本研究成果は、2024年12月19日に、国際学術誌「Resuscitation」にオンライン掲載されました。

バイスタンダーCPRの実施は頭打ちになっている?~日本、韓国、シンガポールでの国際比較~
本研究の概要

研究者のコメント

「筆頭著者である岡田は、救急医として院外心停止患者の蘇生に携わってきました。バイスタンダーCPRは誰にでもできる応急処置で、院外心停止の患者の救命に最も重要なものです。これまで心肺蘇生の普及啓発が日本でも積極的に行われてきましたが、近年は停滞していることが懸念されてきました。実際の臨床現場でも改善が頭打ちになっているように感じていました。今回の研究では、アジアの3ヵ国で継続してバイスタンダーCPRの普及啓発が行われているにも関わらず、バイスタンダーCPRの実施割合の増加が『頭打ち』の状況に陥っていることが示されました。これには社会的、文化的な阻害要因が存在している可能性があると考えています。この結果がバイスタンダーCPRの普及啓発のための問題提起となり、停滞の原因の更なる検証の契機になるのではないかと期待しています。」(岡田遥平)

「本研究は、京都大学大学院医学研究科、国立シンガポール大学Duke-NUS Medical School、ソウル大学のアジア3ヵ国の共同研究であります。国際的に標準化された心停止レジストリーを有する日本、韓国、シンガポールがその大規模データを活用し、院外心停止のバイスタンダーCPRの実施割合という世界共通の課題に対する問題提起をした意義深い研究です。筆頭著者の岡田氏をはじめ、両国の若手研究者が研究の企画段階からリードしてきました。本研究を通じてアジアの研究ネットワークがさらに強固なものとなり、さらなる研究、世界の院外心停止患者の予後改善へと発展していくことを期待しております。」(⽯⾒拓)

詳しい研究内容について

バイスタンダーCPRの実施は頭打ちになっている?―日本、韓国、シンガポールでの国際比較―

研究者情報

研究者名:岡田 遥平
研究者名:西岡 典宏
研究者名:木口 雄之
研究者名:石見 拓
研究者名:西山 知佳

書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1016/j.resuscitation.2024.110445

【書誌情報】
Yohei Okada, Ki Jeong Hong, Shir Lynn Lim, Dehan Hong, Yih Yng Ng, Benjamin Sh Leong, Kyoung Jun Song, Jeong Ho Park, Young Sun Ro, Tetsuhisa Kitamura, Chika Nishiyama, Tasuku Matsuyama, Takeyuki Kiguchi, Norihiro Nishioka, Taku Iwami, Sang Do Shin, Marcus Eh Ong, Fahad Javid Siddiqui (2025). The “invisible ceiling” of bystander CPR in three Asian countries: Descriptive study of national OHCA registry. Resuscitation, 206, 110445.

医療・健康
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