ノーベル医学生理学賞受賞・坂口志文教授ゆかりの研究4選

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はじめに(イントロダクション)

2025年10月、本日、坂口志文教授がノーベル医学生理学賞を受賞されたとのニュースが駆け巡りました。長年にわたる免疫学・制御性T細胞(Treg)研究の成果が高く評価されたものと考えられます。
以下では、坂口教授が関わった、あるいは関連性の深い研究を報じたTii生命科学の記事を4本取り上げ、それぞれの研究内容・意義をわかりやすく紹介します。


記事 1:制御性T細胞を誘導し、炎症を抑える化合物を発見

坂口教授が名を連ねる京都大学・大阪大学合同のチームは、制御性T細胞(Treg)を効率的に誘導する化合物 AS2863619 を発見しました。CDK8/19をターゲットとしたこの分子の作用機序を解明した点は、まさに“次世代の制御免疫療法”を切り開く研究です。
制御性T細胞を誘導し、炎症を抑える化合物を発見
制御性T細胞を誘導し、炎症を抑える化合物を発見
制御性T細胞の誘導による治療の実現に繋がる誘導制御メカニズムを解明2019-10-30 京都大学坂口志文 名誉教授(ウイルス・再生医科学研究所客員教授・大阪大学特別教授)、三上統久 ウイルス・再生医科学研究所招へい研究員(レグセル株式会社研...

概要とポイント:

  • 京都大学・坂口志文名誉教授(大阪大学特別教授兼任)らの研究グループは、新規な制御性T細胞(Treg)誘導化合物 AS2863619 を発見し、その作用メカニズムを明らかにしました。
  • AS2863619はシグナル伝達分子 CDK8/19 を阻害することで、抗原特異的な活性化T細胞を Treg に変換する能力を持つことが示されました。
  • マウスモデル(皮膚炎、1型糖尿病、脳脊髄炎など)で投与実験を行ったところ、Tregが増加し炎症が抑制され、病態改善が観察されたという結果も報告されています。
  • この成果は、Treg誘導を軸とした次世代免疫抑制治療法の可能性を切り拓く意味を持つものと評価されています。

記事 2:脳梗塞慢性期において神経症状を回復させる新規脳内T細胞を発見

脳梗塞の慢性期—長らく“炎症は収束期と見なされる”時期—においても、実は制御性T細胞(Treg)が脳内で重要な役割を担っている可能性が示されました。特に注目すべきは、抗うつ薬がこの脳内 Treg を増強し、神経回復を促す可能性が見出された点です。これは、免疫・神経系をつなぐ橋渡しとして、坂口教授の Treg 研究が活きた好例と言えるでしょう。
脳梗塞慢性期において神経症状を回復させる新規脳内T細胞を発見
脳梗塞慢性期において神経症状を回復させる新規脳内T細胞を発見
抗うつ剤が制御性T細胞を増やし脳梗塞の症状を緩和2019/01/03  慶應義塾大学医学部,日本医療研究開発機構慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室の吉村昭彦教授、伊藤美菜子特任助教らの研究グループは、マウスモデルを用いた実験により、脳梗...

概要とポイント:

  • 慶應義塾大学の研究グループは、脳梗塞発症後の慢性期(発症から一定期間経過後)に、脳内に制御性T細胞(Treg)が集積し、神経症状の回復に寄与するという現象を報告しました。
  • 特に興味深いのは、これらの脳内 Treg(脳 Treg)はセロトニン受容体を持っており、抗うつ薬(セロトニン濃度を上昇させる薬剤など)がこれらの Treg を増やし、神経症状を改善したという実験結果が示された点です。
  • 記事では、坂口教授が発見した Treg の基礎知見が背景として説明されており、脳梗塞など神経疾患領域での応用可能性も示唆されています。

記事 3:感染やワクチンにおける免疫記憶に必須な B 細胞シグナル因子を発見

免疫システムは ‘制御’ と ‘記憶’、両方の側面が重要です。制御性T細胞(Treg)を軸に研究を重ねてきた坂口教授がノーベル賞を受けられた今日、関連領域で進む B 細胞の記憶機構研究にも注目したいと思います。本記事では、ワクチンや感染後免疫が形作られる過程で必須なシグナル因子が明らかになったという基礎研究を紹介しています。
感染やワクチンにおける免疫記憶に必須なB細胞シグナル因子を発見
感染やワクチンにおける免疫記憶に必須なB細胞シグナル因子を発見
感染症やワクチンで抗体をつくるB細胞が免疫を長期にわたって記憶するために必須の分子とそのメカニズムを解明しました。B細胞の抗体応答の抗原特異性や長期記憶を司る胚中心B細胞の形成において、細胞内シグナル分子である「TBK1」が必須であることをマラリア感染とワクチン免疫の動物モデルで証明しました。

概要とポイント:

  • この研究では、感染やワクチン接種後に免疫記憶(特に B 細胞側)が維持されるために必須なシグナル因子を発見したという内容が報じられています。
  • 坂口教授の名前は直接の記事本文には出てきませんが、Treg や免疫制御研究という観点から、彼の研究分野と重なるテーマを扱っており、広範な免疫制御研究の文脈で関連があると見られます。
  • 記事は、B 細胞の活性化・記憶維持メカニズムに関する基礎研究の進歩を伝えており、ワクチン開発や再興感染症対応などに示唆を与えるものとしています。

記事 4:再発しない多発性硬化症の分子基盤を解明

多発性硬化症は自己免疫性神経疾患の代表格です。この記事では、病気の再発を抑える “安定相” の分子基盤がどのように制御されているかを探る研究が紹介されています。坂口教授のような免疫制御メカニズムを追究する研究者にとって、こうした隣接分野の成果もまた重要な示唆を与えるものです。
再発しない多発性硬化症の分子基盤を解明
再発しない多発性硬化症の分子基盤を解明
2023-10-11 国立精神・神経医療研究センター多発性硬化症(MS)は再発を繰り返しながら悪化していく難治性の自己免疫疾患ですが、発病時の病態は重症であっても、その後は再発しないケースもあります。頻回の再発のために高度の障害を残すケース...

概要とポイント:

  • この記事では、多発性硬化症(MS:Multiple Sclerosis)の “再発しない状態” を実現するための分子基盤の解明に関する研究が紹介されています。
  • 特に、免疫制御、自己免疫応答の抑制、神経炎症の抑制等に関わる因子や経路が議論されており、T 細胞制御というテーマと関連の深い内容が含まれています。
  • 坂口教授の名前は本文には明記されていませんが、免疫制御・自己免疫疾患研究の枠組みと響き合うテーマであり、ノーベル賞受賞者の研究領域を広く俯瞰する上で意味のある記事です。

締めくくり(まとめ・展望)

ノーベル医学生理学賞受賞という大きな栄誉を得た坂口志文教授。その背景には、制御性T細胞(Treg)に関する長年の探究と、それを支える幅広い免疫制御・神経免疫・自己免疫研究があります。

上記の4本の記事を通じて、

  • Treg誘導化合物の発見、
  • 脳梗塞後の脳内 Treg の役割、
  • B 細胞免疫記憶機構、
  • 多発性硬化症における免疫制御機構、

といった関連テーマを俯瞰できる構成にしてみました。
今後はこれらの研究成果が、再生医療・免疫療法・神経疾患治療・ワクチン設計など実臨床応用にどのようにつながるかを追っていくのが、非常に楽しみです。

 

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