2025年版:合成生物学・バイオテクノロジーに関する研究と技術開発、最新トレンドとその展望

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2025-11-13 Tii技術情報研究所

第1章 合成生物学・バイオテクノロジー分野における2025年の注目の研究と技術

【1】感染症治療に向けた革新的バイオテクノロジー

【2】ファージを利用した遺伝子水平伝播の新機構

【3】スジアオノリでの精密ゲノム編集

【4】核膜孔の分子選択輸送メカニズム解明

【5】ユーグレナにおける非従来型イントロンの機能

【6】植物ベースのタンパク質生産拠点の設置

【7】皮膚常在微生物カクテルの標準提供

【8】シアノバクテリアの昼夜遺伝制御

【9】タキソールの酵母によるバイオ合成

【10】合成炭素同化経路の開発


第2章 各分野ごとのトレンド分析

2025年には合成生物学の適用範囲が大きく広がり、産業応用・環境対応・医療革新のすべてに波及している。特に非モデル生物、代謝工学、マイクロバイオーム、セルファクトリー設計の4つの軸が今後の中核トピックになると考えられる。

1.合成生物学を用いたナノメディシン設計

2025年版:合成生物学・バイオテクノロジーに関する研究と技術開発、最新トレンドとその展望

概要

最近、Synthetic biology のアプローチをナノメディシン(超微粒子・ナノキャリア等)に適用し、「遺伝子工学的設計を伴うナノ医薬品」つまり “合成生物学ベースのナノメディシン” が議論されています。例えば「top‐down/bottom‐up」戦略を用い、細胞機能や合成生物構成部材を利用してナノ粒子を設計するという視点です。

効果
  • 従来のナノメディシン(物理/化学的合成キャリア)と比較して、より生物機構を活用できるため ターゲティング精度/生体適合性/機能拡張性 が向上する可能性があります。
  • 遺伝子工学で駆動させる設計により、「細胞内で自己生成・自己修復・反応駆動型」のナノ構造を実現できる可能性があります。
課題
  • 生物由来/遺伝子制御系を含むため、安全性・免疫反応・長期安定性のリスクが増えます。
  • ナノスケールかつ複雑な生物系統を設計・製造・規模化するコスト・技術的ハードルが高いです。
  • 規制・倫理面で「遺伝子工学+医薬品」という掛け合わせの承認・検証プロセスが未成熟です。
今後の方向性
  • モジュール化された設計部材(遺伝子回路+ナノキャリア)をライブラリ化し、汎用プラットフォーム化が進むでしょう。
  • 安全規格・標準化(合成生物安全、ナノ医薬品規制)の枠組み整備が急務です。
  • 臨床移行を視野に、小型/低コスト/高スループットの製造プロセス(例:セルフアッセイ、マイクロ流体系)開発が鍵となります。

2.マルチプレックス/プログラム可能なゲノム編集ツールの進展

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概要

ゲノム編集技術、特に CRISPR‑Cas system を基盤としたマルチプレックス編集(複数遺伝子・複数座位を同時に編集)や、プログラム可能な制御(ベースエディター、プライムエディター、ミニ/スモールCas バリアントなど)に関するレビューが2025年にも出ています。

効果
  • 複雑な遺伝子ネットワークや代謝回路を一括で改変できるため、 微生物セルファクトリー作物改良医療細胞治療 など幅広い応用が加速します。
  • 編集効率・スピード・精度が向上することで、研究→産業化の移行が短縮できます。
課題
  • 多座位編集ではオフターゲット(非目的部位の変異)や多重編集による相互作用リスクが増えます。
  • 遺伝子導入・編集成分のデリバリー(特に高効率・低毒性・体内利用)には依然として技術的な壁があります。
  • 倫理・法規制(特にヒト/作物編集)および特許・知財の複雑化も課題です。
今後の方向性
  • 小型Cas、改良ベースエディター、細胞外送達技術(ナノキャリア、ウイルス様粒子、金属有機骨格など)が実用化フェーズに入りそうです。
  • 自動化・AI支援による遺伝子編集設計プラットフォームが普及し、「設計→構築→試験」のサイクルが短縮化されるでしょう。
  • 特に環境微生物・非モデル生物への展開が、既存のモデル生物偏重から脱却する鍵となります。

3.低炭素/CO₂アップサイクルを目指す合成生物システム

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概要

気候変動・カーボンニュートラルの文脈から、CO₂を有価化化合物(長鎖炭化物など)に変換する「合成生物学 × 電触媒/バイオ合成 ハイブリッドシステム」が注目されています。

効果
  • CO₂という豊富かつ環境負荷のある原料を、有機物/化学品へ変換できれば、 循環型バイオエコノミー の実現に大きく寄与します。
  • 微生物や細胞を使った合成により、化石燃料依存を減らす新たな生産方式を構築できます。
課題
  • 電触媒からバイオ合成モジュールへの連携(互換性・効率面)に技術的ギャップがあります。
  • 微生物/酵素系が高濃度CO₂・高圧環境・低温環境などに耐える必要があり、スケールアップが難しいです。
  • 投資・規模化・安定運転(特に長期間運転)に関する産業化ハードルが高いです。
今後の方向性
  • モジュール化/プラグ&プレイ型の電触媒–微生物連携プラットフォームが開発されていくでしょう。
  • 合成生物学における “カーボンネガティブ” 技術(CO₂を固定→有機化合物生成)が、政策・資金面で優遇される傾向が強まります。
  • 非炭素系原料(例:C1化合物、メタン、廃ガス)を活用する次世代バイオプロセスとして展開が加速しそうです。

4.細胞外・セルフリー合成系および合成生物部品モジュール化

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概要

合成生物学における「部材(パーツ)・デバイス・モジュール」のライブラリ化、および細胞外(セルフリー)環境での生合成系構築が加速しています。たとえば、設計可能な転写終止構造、アプタマー・スイッチなどを使った遺伝子回路制御の研究もこの枠に含まれます。

効果
  • 部品の標準化・モジュール化により、設計→構築→テストのサイクルが高速化します。
  • セルフリー系は生細胞特有の代謝/制御バイアスや安全問題を回避でき、プロトタイピングや産業化に好適です。
課題
  • モジュール設計において「予測可能性」「再現性」が依然として課題です。生体環境では予期せぬ相互作用が起きやすいです。
  • セルフリー系ではスケールアップ・コスト削減・連続運転・安定性の確保が技術的に難しいです。
今後の方向性
  • 「デザインビルドテストループ(DBTL)」の自動化・AI統合が進み、部品ライブラリ+設計支援ツールがより普及するでしょう。
  • 工業用に向けた「キメラ微生物/整備済みセルファクトリー」+細胞外モジュール併用型ハイブリッド生産系が見えてきそうです。
  • 標準化/相互運用性(部品間のインターフェース、データフォーマット)を整備することで、産業界参入の門戸が広がります。

5.医療・治療応用における合成生物学の拡大

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概要

合成生物学技術(遺伝子編集、細胞工学、ナノキャリアなど)が医療・治療分野へさらに拡大しています。特に細胞治療(CAR‑Tなど)、遺伝子治療、バイオセンサー、ナノ医薬品、etc。過去数年のレビューも踏まえ、2025年時点でもそのトレンドは継続中です。

効果
  • 従来治療では困難だった疾患(多遺伝子疾患、希少疾患、個別化医療)に対し、 精密・個別化/セルベース治療 が現実味を帯びてきています。
  • バイオセンサー・診断用途でも合成生物学が「生きた部材」を活用した新たなモダリティ(例:細胞ベースセンサー、人工遺伝子回路)を提供可能です。
課題
  • 安全性(腫瘍化、免疫反応、長期影響)、コスト、スケーラビリティが高いハードルです。
  • 医療機器・医薬品/生物製剤としての規制枠組みへの適合・承認に時間がかかります。
  • 技術的にも「オフターゲット編集」「治療細胞の生存・機能維持」「デリバリー効率」などが課題です。
今後の方向性
  • より安全性・効率性の高いセル・遺伝子治療プラットフォームが構築され、商用実例が増えるでしょう。
  • 合成生物学+デジタルヘルス(AI/モニタリング)+バイオ製造の融合が進み、「オンサイト生産」「個別対応生製剤」の流れが加速。
  • 倫理・社会・規制の議論(遺伝子・細胞改変、データ活用、コストアクセス)も活発化すると考えられます。

第3章 総合トレンド分析/まとめ

トレンドの共通テーマ

  • モジュール化・標準化・自動化:設計部材(遺伝子回路、部品、セルファクトリー)のライブラリ化が進み、設計‐構築‐試験のサイクルが加速しています。
  • 多分野融合型アプローチ:合成生物学がナノテクノロジー、電触媒、細胞治療、AI設計など他分野と結びつき、「ハイブリッド技術」が目立ちます。
  • 産業化・スケール化フェーズの到来:研究室レベルのデモから、実用/商用化を見据えた動きが強まっており、低炭素原料、医療用途、細胞ファクトリーなどの「次世代バイオ産業」が形を帯びつつあります。

効果/機会

  • 環境(CO₂削減・バイオ製造)、医療(個別化治療・新薬開発)、材料・化学(バイオベース化合物)など、社会的インパクトの大きな用途で合成生物学が鍵技術となりつつあります。
  • 競争優位性(生産コスト削減、製造スピード、カスタマイズ可能性)をもたらすため、企業・投資家の注目も増しています。

課題/リスク

  • 技術的な成熟度(信頼性/再現性/スケール)や安全性・規制対応が追いついていない領域が多く、実用化段階での“落とし穴”があります。
  • 倫理・社会的受容(遺伝子改変、細胞工場、バイオ安全性)および知財・産業構造の整備が遅れており、進展には制度的な対応も必要です。
  • コストとアクセス(特に医療用途)も大きな壁で、「誰が・どこで・どのように」この技術を享受できるかが問われています。

今後の方向性

  • 2025年以降、技術の“プロトタイプ→量産/実装”への移行期にあると考えられます。部材ライブラリ/セルファクトリー/デザインツール等が整備されることで、ブループリント(設計図)的な開発が主流化するでしょう。
  • 規制・標準・インフラ(バイオデザインプラットフォーム、データ共有、セルファクトリー設備、バイオ安全ネットワーク)が追いかける形で発展する必要があります。
  • また、発展途上国・中小企業・地域拠点向け“小型・低コスト”バイオ製造技術の普及も視野に入ると思われます。
  • 社会的・倫理的な対話も並行して進み、「合成生物学が社会実装されるための環境づくり」が重要となります。
生物工学一般
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