わが国における空腹時血糖値の長期的な推移と中年以降の循環器病発症リスクの関係を示唆

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2019-02-20 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)予防健診部の宮本恵宏部長、尾形宗士郎研究員(現 藤田医科大学講師)らの研究チームは、長期にわたる空腹時血糖の推移と循環器病発症の関連を明らかにしました。本研究成果は、米国心臓協会の専門誌「Journal of American Heart Association」に2019年1月28日に掲載されました。

背景

高血糖は冠動脈疾患と脳卒中のリスク(以下、「循環器病リスク」)であると、多くの研究から報告されています。これらの研究では特定の1時点もしくは2~3時点といった少ない回数の血糖値の平均値を評価していました。一方で、臨床では同一患者から数年にわたり複数回血糖値を測定し、その推移から血糖値を評価し治療を進めます。このため、臨床と同様に経時変化から循環器病発症リスクを推定できる研究が必要とされていました。

研究手法と成果

宮本部長らの研究チームは、国循が1989年から実施している都市部住民を対象としたコホート研究(注1)「吹田研究」にて、1989年から2013年の期間での循環器病発症の有無と空腹時血糖値の関係を解析しました。解析対象者は男性3,120名、女性3,482名でした。空腹時血糖値は2年おきに測定し、統計モデルの一種であるjoint latent class mixed model(注2)を使用して空腹時血糖値推移の経時変化パターン分類を行い、男性で3パターン、女性で2パターンを同定(注3)しました。
観察期間中に初めて冠動脈疾患あるいは脳卒中を起こしたのは、男性356名(追跡期間中央値17.2年)、女性243名(同20.2年)でした。男性のうち、時間の経過とともに空腹時血糖値が大きく上昇するグループでは循環器病累積発症率が高い一方で、中年時に血糖値が高くてもその後適切にコントロールできたグループでは発症率が低くなりました(図1)。女性においては、空腹時血糖値が大きく上昇するグループは上昇幅が少ないグループと比較して、循環器病累積発症率がやや高くなりました(図2)。このことから、年齢とともに血糖値が上昇することで循環器病リスクが高まるという過去の研究と同様の結果が導き出せた一方、中年期に血糖値を適切にコントロールできれば循環器病の発症を抑制できることも示唆されました。

今後の課題と展望

本研究は観察研究であり確定的な結論を出すことはできないので、今後は介入研究など因果関係を検討する研究が必要です。

<注釈>

(注1)コホート研究
ある集団を、疾病発生までの過程を時間を追って観察する研究のこと。代表的なコホート研究には、心臓病の危険因子を突き止めるために約60年前に米国で始まり今でも世界中の循環器病研究に大きな影響を与え続けているフラミンガム研究、年齢や職業に偏りがない平均的日本人集団の研究として信頼性の高い久山町研究、国民の7割を占める都市部住民を対象としたわが国唯一の疫学研究として国循が開始した吹田研究などがある。

(注2)joint latent class mixed model
解析モデルの一種で、変数(本研究の場合は空腹時血糖値)の経時的変化を統計的にクラス分類して、それぞれのクラス分類集団の生存率(本研究では循環器病発症率)を求めるもの。

(注3)同定
ある対象について、所属する分類を決めること。

<図表>

(図1)男性における空腹時血糖値の推移パターンと、そのパターン内における循環器病累積発症率
左図の縦軸は空腹時血糖値を、横軸は年齢を、図中の線は統計モデルによる推定値(真ん中の線)とその95%信頼区間(上と下の線で囲まれた区間)を示しています。
右図の縦軸は循環器病累積発症率を、横軸は年齢を、図中の線は統計モデルによる推定値を示しています。
①中年期の血糖値は高いがその後適切にコントロールされた群(class1:黒)②中年期から血糖値が緩やかに上昇する群(class2:赤)③中年期から老年期に血糖値が急上昇する群(class3:緑)の循環器病累積発症率は、class3では過去の研究と同様に増加するが、class1ではclass2よりも発症が抑えられていた。

(図2)女性における空腹時血糖値の推移パターンと、そのパターン内における循環器病累計発症率
左図の縦軸は空腹時血糖値を、横軸は年齢を、図中の線は統計モデルによる推定値(真ん中の線)とその95%信頼区間(上と下の線で囲まれた区間)を示しています。
右図の縦軸は循環器病累積発症率を、横軸は年齢を、図中の線は統計モデルによる推定値を示しています。
①中年期から老年期にかけて血糖値が大きく上昇する群(class1:黒)はゆるやかに上昇する群(class2:赤)と比較してやや循環器病発症率が高くなる。

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