総合地球環境学研究所
長崎大学教育学部大庭伸也准教授・鈴木滉大氏(2013年度教育学部卒)、長崎大学酒井陽一郎博士(現 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)・柴田淳也博士(現 広島大学環境安全センター)・奥田昇准教授(現 総合地球環境学研究所)らの研究グループは、圃場整備により生じた水田と水路の段差が魚の往来を阻み、水田の上位捕食者・タガメの栄養段階(生産者からの食物連鎖の長さ)を低下させることを発見しました。
田んぼはお米を作るだけでなく、自然湿地の代わりとして湿地にすむ生き物にとっても重要な場所であることが近年、指摘されています。しかし、排水を促すために水路との段差を大きくした水田では、魚が水田で繁殖できなくなるだけでなく、魚を食べる捕食者の食性(食べ物)にも影響することが懸念されます。
水路との段差がない水田とある水田で、水田生態系の上位捕食者であるタガメの食性を比較した結果、タガメは前者の水田でのみ栄養段階の高い魚類を捕食していました。さらに、窒素・炭素安定同位体比分析を用いてタガメの栄養段階(生産者からタガメにいたる食物連鎖の長さ)を比較したところ、前者の水田では後者の水田より食物連鎖が長いことが明らかとなりました。
また、本研究は、成虫の足先の組織や幼虫の脱皮殻の窒素・炭素安定同位体を分析することで、絶滅危惧種であるタガメ野生集団の生態を生きたまま調査する技術を確立したことも評価されています。
本研究の成果は淡水生物学の国際誌「Freshwater Biology」に掲載されました。
論文タイトル:Effects of irrigation system alterations on the trophic position of a threatened top predator in rice‐field ecosystems
著者:Shin-ya Ohba, Kodai Suzuki, Yoichiro Sakai, Jun-ya Shibata, Noboru Okuda