アディポネクチンは善玉?それとも悪玉?

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高血圧患者における血中アディポネクチン高値は脳・心血管病の発症リスクに関連

2019-11-13 熊本大学,国立循環器病研究センター

研究成果の概要

脂肪細胞から分泌されるタンパク質「アディポネクチン」は、生体に有益な多彩な生理活性を持つ”善玉”体内物質として注目されています。また、肥満、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病では、しばしば血中のアディポネクチン値が低下することが問題視されており、それが生活習慣病の悪化や動脈硬化を促進し循環器疾患の発症リスクを高めることが懸念されています。従って、血中アディポネクチン濃度を高めることは生活習慣病や循環器疾患の予防・治療に有益であると考えられており、それを目的とした新しい治療法の臨床応用が期待されています。しかしながら、これまで高血圧患者におけるアディポネクチンの臨床的意義については十分わかっていませんでした。

今回、熊本大学大学院生命科学研究部(医学系)の光山勝慶教授、同大学病院地域医療・総合診療実践学寄附講座の松井邦彦特任教授、同大学保健センターの副島弘文准教授らの研究グループは、同研究グループが行った高リスク高血圧患者を対象とした臨床研究(ATTEMPT-CVD研究※1)データを元に、血中アディポネクチン濃度と心血管疾患/腎機能悪化の発生率との関連性について解析調査を行いました。その結果、血中アディポネクチン高値グループでは心血管疾患/腎機能悪化の発生リスクが有意に高いことを明らかにしました。これまで血中アディポネクチン値を高めることが生活習慣病改善や健康寿命の延伸に有益であると考えられていましたが、今回の高血圧患者での解析結果は予想外の結果であり、患者の病態によっては血中アディポネクチン値を高めることが必ずしも有益ではなく、むしろ循環器疾患発症の高リスクと関連することを示しました。

本研究成果は、イギリスのオープンアクセスジャーナル(Scientific reports)に英国時間11月12日10時(日本時間11月12日19時)に掲載されました。また、ATTEMPT-CVD研究は、公益財団法人長寿科学振興財団の支援により行われました。

研究内容説明

脂肪細胞から分泌されるタンパク質「アディポネクチン」は、インスリンのはたらきを正常に戻す作用、動脈硬化を防ぐ作用、心臓を保護する作用など、生体に有益な多彩な生理活性を持つ”善玉”体内物質として注目されています。また、肥満、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病では、しばしば血中のアディポネクチン値が低下することが問題視されており、それが生活習慣病の悪化や動脈硬化を促進し循環器疾患の発症リスクを高めることが懸念されています。従って、血中アディポネクチン濃度を高めることは生活習慣病や循環器疾患の予防・治療に有益であると考えられており、それを目的とした新しい治療法の臨床応用が期待されています。しかしながら、これまで高血圧患者におけるアディポネクチンの臨床的意義については十分わかっていませんでした。

本研究は、公益財団法人長寿科学振興財団の支援を受けて行ったATTEMPT-CVD研究で得られたデータを元に、ATTEMPT-CVD研究グループが血中アディポネクチン濃度と高血圧患者での循環器疾患発症リスクとの関連性について調べた解析研究です。ATTEMPT-CVD研究で追跡した外来高血圧患者1,228人を、血中アディポネクチン濃度の違いにより4グループに分け、血中アディポネクチン低値から順に、
・Q1(アディポネクチン値:0.84-3.56 μg/mL)
・Q2(同3.57-5.28μg/mL)
・Q3(同5.29-7.87μg/mL)
・Q4(同7.88-41.59μg/mL)
と分類しました。

これら4グループの3年間の追跡期間中の血圧値はほぼ同等でした。しかしながら、心血管疾患発症/腎機能悪化の複合評価項目であるイベント発生数はQ1で17例、Q2で18例、Q3で19例でしたが、アディポネクチン最高値グループであるQ4では35例であり著明に多くなりました(図及び表を参照)。さらに性別、年齢、心血管病の既往有無、糖尿病の有無、尿中アルブミン排泄量、血漿BNP、糸球体ろ過率、喫煙の有無などの交絡因子で調整後も、Q4グループは独立して心血管疾患発症/腎機能悪化の複合評価項目のイベント発生と有意な関連がありました(ハザード比1.949;95%信頼区間:1.051-3.612;P=0.0341)。以上から、血中アディポネクチン高値は、高リスク高血圧患者における心血管疾患・腎疾患の発症リスクと有意に関連していることがわかりました。

これまでの研究からは、血中アディポネクチン値を高めることが生活習慣病改善や健康寿命の延伸に有益であると考えられていたので、今回の高血圧患者での解析結果は予想外のものでした。患者の病態によっては血中アディポネクチン値を高めることが必ずしも有益ではなく、むしろ循環器疾患発症の高リスクと関連することを示しました。

表:血中アディポネクチン値で分類した4群の脳・心血管・腎イベントの発生数比較

アディポネクチン値で分類した4群
Q1
(n=306)
Q2
(n=302)
Q3
(n=303)
Q4
(n=302)
アディポネクチン濃度 (μg/mL) 0.84-3.56 3.57-5.28 5.29-7.87 7.88-41.59
総イベント発生数 17 18 19 35
脳・心血管・腎イベントの内容
  脳卒中 5 2 5 7
  一過性脳虚血発作 1 1 1 0
  突然死 1 0 1 2
  急性心筋梗塞 1 1 2 2
  狭心症 0 1 2 3
  心不全 0 2 1 6
  大動脈瘤 2 0 0 1
  大動脈解離 0 1 0 0
  末梢動脈疾患 3 2 2 3
  糖尿病性腎症 1 1 0 0
  糖尿病性網膜症 3 2 3 5
  血清クレアチニン倍化 0 5 1 6
  末期腎不全 0 0 1 0

 

アディポネクチンは善玉?それとも悪玉?

図:血中アディポネクチン値で分類した4群の脳・心血管・腎イベントの発症率の比較

用語解説

※1 ATTEMPT-CVD研究

A trial of Telmisartan Prevention of Cardiovascular Disease研究の略(研究代表者:小川久雄 元熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学教授、現国立循環器病研究センター理事長)。全国の168医療機関の医師が参加した、高リスク高血圧患者対象の多施設共同無作為化2群比較オープン試験。患者登録は2009年7月から2011年4月にかけて行い1,228人を追跡した。研究目的は、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)による降圧治療群とARB以外の降圧薬による治療群の効果を比較検討することであり、3年間の追跡調査を行った。主要評価項目は尿アルブミン排泄量および血漿BNPの変化率であった。副次評価項目として複合心血管/腎イベント発症率、血漿アディポネクチン等のバイオマーカーの変化率を設定していた。主要な結果は、既に2015年の欧州心臓病学会(ロンドン)のHot Line Sessionで発表しており、論文はEuropean Journal of Preventive Cardiologyに同時掲載された。今回の新たな解析研究は、ATTEMPT研究グループが本研究追跡患者1,228人を血中アディポネクチン濃度に従って4グループに分け血中アディポネクチン値と心血管疾患発症/腎機能悪化の発生率との関連性を検討する目的で行われた。

論文情報

論文名:Total adiponectin is associated with incident cardiovascular and renal events in treated hypertensive patients: subanalysis of the ATTEMPT-CVD randomized trial

著者:光山勝慶(熊本大学大学院生命科学研究部生体機能薬理学)(責任著者)
副島弘文(熊本大学保健センター)
安田修(鹿屋体育大学スポーツ生命科学系)
野出孝一(佐賀大学医学部医学科内科学講座)
陣内秀昭(陣内病院)
山本英一郎(熊本大学病院循環器内科)
関上泰二(せきがみ内科・糖尿病内科)
小川久雄(国立循環器病研究センター)
松井邦彦(熊本大学病院地域医療・総合診療実践学寄附講座)

掲載誌:Scientific reports

URL:https://www.nature.com/articles/s41598-019-52977-x

医療・健康
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