【すべての人に健康を Vol.3】感染症封じ込めへ研究拠点のネットワークを強化
2017-12-4 JICA
ガーナの野口記念医学研究所で実験する日本人専門家と現地研究者ら(写真:飯塚明夫/JICA)
西アフリカで2014年、エボラ出血熱が大流行しました。感染拡大を阻止するため、近隣国での疑い事例を検査するなど、西アフリカ地域での感染症対策で重要な役割を果たしたのが、JICAが長年、協力を続けているガーナ共和国の感染症の研究施設(ラボ)、野口記念医学研究所(野口研)でした。感染症流行などの健康危機に備えることは、UHC達成のための重要な要素です。
シリーズ「すべての人に健康を」第3回は、エボラ出血熱をはじめ、HIV/エイズやマラリア、結核、黄熱病などの感染症の脅威と闘う感染症研究施設のネットワーク化と人材育成の取り組みを紹介します。
野口研を拠点にサーベイランス強化と基礎研究
世界保健機関(WHO)によると、感染症で死亡する人は世界で年間約950万人に上ります(注)。JICAは、アフリカやアジア、中南米などで、感染症のラボの設立や強化に協力してきました。
野口記念医学研究所に残る野口博士が使用していた顕微鏡(写真:今村健志朗/JICA)
中でも日本のガーナへの医療協力は1968年に始まり、1979年には野口研が設立されました。今年は黄熱病の研究に尽力した野口英世博士(1876~1928年)のガーナ来訪から90年目の節目にあたり、現地では11月に記念のシンポジウムが開催されました。
感染症の発生や流行を防止するには、発生動向調査(サーベイランス)が重要とされています。JICAは2016年から、東京大学医科学研究所、国立感染症研究所、三重大学・病院とともに、野口研、ガーナの医療当局と協力し、サーベイランスシステムの強化と基礎研究を組み合わせたプロジェクト「ガーナにおける感染症サーベイランス体制強化とコレラ菌・HIV等の腸管粘膜感染防御に関する研究」を実施中です。これにより、新たな病原菌を見つけることも期待されています。
JICAはまた、野口研で、2018年の完成に向けて、病原体が外部に漏洩することがないよう封じ込める構造を持つ実験棟の新設を2018年の完成に向けて進めていて、西アフリカ域内の拠点ラボとしてさらなる機能強化を図ります。
個別のラボ支援から国境を越えた連携へ
JICAは現在、野口研のように長年整備・強化を支援してきたラボを中心に、ラボ同士の連携強化を進めています。
国境を越えて広がる感染症と闘うため、JICAが協力するラボ同士が連携する「健康危機対応能力強化に向けたグローバル感染症対策人材育成・ネットワーク強化プログラム」(PREPARE構想)が今年、動き出しました。拠点ラボの機能強化、感染症対策の指導者育成、拠点ラボを通じたネットワークの強化を目指します。今後の新しい取り組みとして、西アフリカ地域での感染症監視体制の強化に向け、エボラ出血熱の被害を受けたシエラレオネとリベリアに、ナイジェリアとガーナを加えた4ヵ国対象の研修を野口研で開始予定です。こうしたラボネットワークの取り組みは今後、アフリカ域内、アジア・中南米へ拡大します。
JICAが支援する世界各国のラボ
コア人材育成プログラムで北大・長崎大に留学生
長崎大学の実験室で担当教授と研究するエリザベスさん(右)
ネットワークの基本は、人です。国を越えて、人や拠点ラボ間のネットワークが構築されれば、感染症への対応もより効果的になります。
PREPARE構想のもと、JICAは2017年、感染症対策分野での博士・修士号の取得を目指す新たな日本留学プログラムを開始しました。
11月には、長崎大と北海道大にケニア、ザンビア、コンゴ民主共和国から10人の留学生が来日しました。長崎大学大学院医歯薬学総合研究科でウイルス学を学ぶルバイ・エリザベスさんは、ケニア中央医学研究所の研究員。「感染症による死亡率を低減させるには、適切な診断や処置が重要です。感染症対策に向けた幅広い知識や必要なスキルを身につけたいです」と意気込みを語ります。同プログラムでは、今後10年間をめどに毎年14人前後の留学生を受け入れていく予定です。
(注)「三大感染症」と呼ばれる HIV/エイズ、結核、マラリアの2015年の死者数は約300万人。内訳はHIV/エイズ110万人(HIV陽性者による結核による死亡者数も含む)、マラリア43万人、結核140万人(HIV陰性)。出典はWHO