所得と腎機能低下の関連が明らかに~低所得群は高所得群と比べ急な腎機能低下や人工透析開始のリスクが1.7倍~

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2024-03-04 京都大学

石村奈々 医学研究科博士課程学生、井上浩輔 白眉センター/医学研究科特定准教授、近藤尚己 医学研究科教授と中村さやか 上智大学教授、丸山士行 曁南大学教授らの研究グループは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診および医療レセプトのデータ(約560万人分)を用いて、皆保険制度のある日本において個人の所得と腎機能低下に関連がみられることを明らかにしました。

これまでの研究により、慢性腎臓病(CKD)の発症や進行には社会経済要因(所得、教育歴、居住地など)との関連がみられ、社会経済的地位の低い人ほどリスクが高いことが示されていました。しかし、公的な皆保険制度がなく無保険者は高額な医療費のかかる米国からの報告が多く、皆保険制度のある国、特に日本での状況は分かっていませんでした。本研究では全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入する被保険者を対象とし、月額収入(標準報酬月額)を基に10分位に分け、所得により腎機能低下リスクの違いがあるかを検討しました。急なCKD進行(年間eGFR低下量>5ml/min/1.73m2)と腎代替療法(透析・腎移植)の開始について評価し、その結果、所得が最も低いグループ(平均月収136,451円)は最も高いグループ(平均月収825,236円)と比較して、急なCKD進行のリスクが1.7倍、腎代替療法開始のリスクが1.65倍高いことが示されました。

本研究は、健康保険や毎年の健康診断など手厚い医療制度の敷かれた日本においても、所得による腎機能低下リスクの差が男女ともに存在することを明らかにしました。より公平かつ効果的なケアに向けて、医療費の補助を中心とする現在の皆保険制度下のサービスに加えて、腎機能を保つために必要な健やかな生活を維持できる生活環境や支援体制をさらに整備していく必要性を示唆します。また、関連するメカニズムの解明に向けて、生活習慣や治療の質の違い、社会生活上のストレスや環境の影響などを明らかにすることが求められます。

本研究成果は、2024年3月2日に、国際学術誌「JAMA Health Forum」に、オンライン掲載されました。

所得と腎機能低下の関連が明らかに-低所得群は高所得群と比べ急な腎機能低下や人工透析開始のリスクが1.7倍-最も所得の低いグループは最も所得の高いグループと比べて、急なCKD進行のリスクが1.7倍、腎代替療法(透析・腎移植)開始のリスクが1.65倍高かった。所得の低下に応じてリスクが増加する、逆の用量反応関係を認めた。

研究者のコメント

「本研究は石村(筆頭著者)が病院で腎臓病患者さんの診療に携わる中で、健康には社会との深い繋がりがあり、経済的理由や家族の事情から治療中断に至ることがあり、受療行動にも社会経済格差が存在すると気付く所から始まりました。同時に病院診療の限界と一次予防(健康増進・発病予防)の重要性を認識し、この不平等をなくし皆が同じように健康でいられる、腎不全にならない社会を実現したい思いから、この研究を遂行しました。結果は想定と一致し、現行の医療制度だけでは健康の公平性が保てていないことが明らかとなりました。今後も研究を深め、どのような人がどのような機序で腎不全に至っているのかを明らかにし、健康格差の縮小に貢献できればと思います。」

詳しい研究内容について

所得と腎機能低下の関連が明らかにー低所得群は高所得群と比べ急な腎機能低下や人工透析開始のリスクが1.7倍-

研究者情報

研究者名:井上 浩輔
研究者名:近藤 尚己

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