PTSD患者における子ども時代の性的虐待と認知機能低下の関連を発見

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子どもの虐待の早期発見と介入の重要性を示唆

2020-06-17 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP) 精神保健研究所の金吉晴所長、行動医学研究部の堀弘明室長、中山未知研究生らの研究グループは、NCNP神経研究所疾病研究第三部、名古屋市立大学大学院医学研究科精神医学教室、金沢大学国際基幹教育院臨床認知科学研究室と共同で、幼少期に性的虐待のあった心的外傷後ストレス障害(PTSD)1)女性患者において認知機能2)に低下がみられることを明らかにしました。

 PTSDはトラウマ体験をきっかけとして発症することのある精神疾患です。PTSD患者さんは、突然トラウマの記憶を思い出して感情的に苦痛を感じたり、非常に神経が過敏になったりし、また、記憶や注意、実行機能、言語を含む様々な認知機能障害を呈することが知られています。PTSDの発症リスクを高める要因については、さまざまな種類のものがありますが、その一つとして、幼少期の虐待/ネグレクトを含む被虐待体験の経験が明らかになっています。幼少期の被虐待体験はまた、子どもの認知機能にネガティブな影響を与えることも知られています。しかし、幼少期の被虐待体験が成人のPTSD患者さんの認知機能に与えうる長期的影響についてはほとんど知られていません。

 本研究グループは、PTSDの女性患者さんにおいて、健常な女性に比較して、身体的虐待/ネグレクト、性的虐待、心理的虐待/ネグレクトをより多く経験していること、さらに性的虐待の経験を有するPTSDの女性患者さんでは、性的虐待のない患者さんに比べ、言語などの認知機能に低下がみられることを明らかにしました。

 今回の研究は、女性PTSD患者さんの認知機能に対して、幼少期の性的虐待が成人期以降も長期にわたってネガティブに作用することを明らかにした点で、幼少期虐待の早期発見や介入の重要性を示したものと考えられます。

 この研究成果は、日本時間2020年4月24日に国際精神医学誌「Frontiers in Psychiatry」にオンライン掲載されました。

研究の背景

 PTSDはトラウマ体験を契機として発症する疾患であり、トラウマ的な出来事に関連した苦痛な記憶を繰り返し想起するなどの症状の他に、記憶や注意、実行機能、言語などの認知機能の低下と関連することが知られています。幼少期の虐待/ネグレクトは、後の人生でトラウマに曝されたときのPTSD発症のリスク要因の一つであり、また、子どもの認知機能障害と関連することがさまざまな研究により明らかになっています。しかし、幼少期の虐待/ネグレクトが引き起こしうる認知機能障害が、長期的にどのように影響するのかについては十分にわかっていませんでした。

 本研究に先立ち私たちは、PTSDの女性患者さんと健常対照女性の認知機能を比較し、患者さんにおいて有意に(=統計的に意味を持って)認知機能が低下していることを見出しました(参考文献1)。

 そこで本研究では、成人のPTSD患者さんにおけるこのような認知機能障害が、幼少期の虐待/ネグレクトの経験とどのように関連するのかを検討しました。

研究の内容

 本研究は、当センターが主幹研究機関となり、共同研究機関とともに実施しているPTSD研究プロジェクトにおいて収集中のデータの一部を用いて行われました。

 本研究では、50名のPTSD女性患者さんおよび94名の健常対照女性を対象としました。幼少期の虐待/ネグレクトは、広く用いられている質問紙であるChildhood Trauma Questionnaire (CTQ)によって評価しました。認知機能は、日本語版の妥当性が確立されている神経心理学的検査バッテリーであるRepeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status (RBANS)によって測定しました。

PTSD患者群では、健常対照群に比べ、幼少期の身体的虐待/ネグレクト、性的虐待、心理的虐待/ネグレクトを有意に多く経験していることが見出されました。

患者群において、幼少期の性的虐待を多く受けているほど、言語をはじめとした認知機能が有意に低いという負の相関が認められました。一方、健常群では幼少期の虐待/ネグレクトと認知機能との間に有意な相関がみられませんでした。

 さらに、患者群の中で比較をおこなったところ性的虐待の経験を持つ者は、持たない者に比べ、言語および総得点(全般的な認知機能の指標)が有意に低いことが示されました(図1)。

 これらの結果から、PTSD患者群では健常対照群に比べて認知機能が低下しており、とりわけ幼少期の性的虐待を有する患者では認知機能低下が目立つ、ということが明らかになりました。

図1) 性的虐待のあるPTSD患者群と性的虐待のない患者群におけるRBANS各指標得点の比較。

図1) 性的虐待のあるPTSD患者群と性的虐待のない患者群におけるRBANS各指標得点の比較。群間の比較は、診断群(患者vs健常者)および幼少期性的虐待(有vs無)での2要因分散分析の事後検定による。 †p = 0.037; **p = 0.011; ***p < 0.001。

研究の意義・今後の展望

 本研究の特色は、幼少期の性的虐待の経験がその後長期にわたって影響を及ぼし、PTSD患者さんの認知機能低下のリスクとなる可能性を示した点にあります(全員がそうなるというわけではありません)。本研究結果から、臨床場面や教育・福祉現場での注意深い観察や傾聴による、子どもの虐待/ネグレクトの早期発見および介入の重要性が示唆されます。

用語解説・参考文献

1)PTSD

心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder: PTSD)は、生命の危険を感じるような出来事を体験・目撃する、重症を負う、犯罪被害に遭う、などの強い恐怖を伴う体験がこころの傷(=トラウマ)となり、時間がたっても強いストレスや恐怖を感じる精神疾患。

2)認知機能

認知機能とは、言葉などを記憶したり、物事に注意を向け、それに基づいて行動を組織したり、実際の作業を行ったりする脳の機能。

参考文献1(原著)

Cognitive function in Japanese women with posttraumatic stress disorder: Association with exercise habits.

Narita-Ohtaki R, Hori H, Itoh M, Lin M, Niwa M, Ino K, Imai R, Ogawa S, Sekiguchi A, Matsui M, Kunugi H, Kamo T, Kim Y:

Journal of Affective Disorders 2018; 236: 306-312.

原論文情報

・論文名:Possible long-term effects of childhood maltreatment on cognitive function in adult women with posttraumatic stress disorder.

・著者:Nakayama M, Hori H, Itoh M, Lin M, Niwa M, Ino K, Imai R, Ogawa S, Sekiguchi A, Matsui M, Kunugi H, Kim Y:

・掲載誌:Frontiers in Psychiatry 2020; 11: 344.

・DOI: 10.3389/fpsyt.2020.00344

・URL: https://doi.org/10.3389/fpsyt.2020.00344

助成金

本研究成果は、以下の補助金・助成金によって得られました。

・文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(A)(19H01047)

・厚生労働科学研究費補助金(201616028)

・小柳財団研究助成金, 総合健康推進財団研究助成金, メンタルヘルス岡本記念財団研究助成金

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】

堀 弘明 (ほり ひろあき)

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 行動医学研究部 室長

【報道に関するお問い合わせ】

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター

総務課広報係

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