運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

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2019-06-05 東京大学

1.発表者:
小山 隆太(東京大学大学院薬学系研究科 薬学専攻 准教授)
安藤めぐみ(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 博士課程2年生)
柴田 和輝(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 研究当時:博士課程3年生)
岡本 和樹(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 研究当時:博士課程3年生)
小野寺純也(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 博士課程1年生)
森下 皓平(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 研究当時:修士課程2年生)
三浦 友樹(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 研究当時:博士課程3年生)
池谷 裕二(東京大学大学院薬学系研究科 薬学専攻 教授)

2.発表のポイント:
◆妊娠中に免疫が活性化されたマウス(母体免疫活性化、注1)から生まれた仔マウスでは、 自閉症様行動とシナプス密度の増加が生じ、それらが自発的な運動により改善されました。
◆母体免疫活性化により、脳内免疫細胞であるマイクログリアによるシナプス貪食(注2)が 不全となることで正常なシナプス刈り込み(注2)がおきず、シナプス密度が増加しました。 ◆自発的な運動によってマイクログリアのシナプス貪食が促進されました。

3.発表概要:
東京大学大学院薬学系研究科の小山隆太准教授と安藤めぐみ大学院生らの研究グループは、 自閉症モデルマウスを用いて、自閉症の治療における運動の有効性を示しました。
自閉症は、社会性障害やコミュニケーション障害を主な症状とする神経発達障害です。自閉 症は患者やその家族の生活の質を損ねることが問題となっていました。しかしながら、その発 症メカニズムは十分には解明されておらず、根本的な治療法も確立されておりません。
研究グループは、自発的な運動が自閉症モデルマウスにおける自閉症様行動と、脳内シナプ ス密度の増加を改善させることを発見しました。また、自閉症モデルマウスでは脳内免疫細胞 であるマイクログリアによるシナプス貪食が不全となっており、運動がシナプス貪食を促進さ せ、シナプス密度を正常化することを明らかにしました。
本研究から、自閉症の発症および治療におけるマイクログリアの重要性が明らかとなりまし た。本研究成果が、自閉症の発症メカニズムのさらなる解明や、新規治療ターゲットの創出に 繋がることが期待されます。

4.発表内容:
研究グループは、自閉症モデルマウスを用いて、運動が自閉症様行動やシナプス変性にもた らす影響を調べました。
1)運動によって、自閉症様行動が改善される
運動は記憶や学習といった脳機能の向上に寄与することが示唆されています。研究グループ は、神経発達障害である自閉症の治療法として、運動が有効である可能性を検証しました。自 閉症のリスク要因の一つに、妊娠中のウィルス感染があります。そこで本研究では、母体免疫 活性化による自閉症モデルマウスを用いました。これは、妊娠マウスに二重鎖 RNA である poly(I:C)を投与し免疫反応を惹起することでウィルス感染を模倣するもので、生まれてきた仔 マウスは成長後に自閉症様行動を示します。まず、成体期になった自閉症モデルマウスの飼育 ケージに回し車を入れ、1か月間、自発的な車輪運動をさせました。その後、行動試験を行っ たところ、社会性障害や常同行動などの自閉症様行動が改善されました(図1)。

2)運動によって、シナプス変性が改善される
自閉症の発症にシナプス形態や機能の変性が関与することが示唆されているため、運動がシ ナプス変性を改善する可能性を検証しました。運動により、歯状回の顆粒神経細胞の活動が上 昇しました。そこで、顆粒神経細胞と海馬 CA3 野の錐体神経細胞との間に形成されるシナプ スに着目したところ、成体期の自閉症モデルマウスでは、シナプス密度が増加し、これが発達 期のシナプス刈り込み不全に由来することが明らかになりました。次に、自閉症モデルマウス に運動をさせたところ、成体期のシナプス密度がコントロール群と同程度にまで低下しました (図2)。

3)運動によって、マイクログリアによるシナプス貪食が促進される
マイクログリアは、発達期にシナプスを貪食してシナプス密度を制御し、正常な神経回路の 構築に寄与することが示されてきました。そこで、自閉症モデルマウスにおいてマイクログリ アによるシナプス貪食が不全となっている可能性を検証しました。その結果、発達期の自閉症 モデルマウスでは、マイクログリアによるシナプス貪食量が減少することが明らかになりまし た。また、成体期に運動をさせた自閉症モデルマウスでは、マイクログリアによるシナプス貪 食量がコントロール群と同程度まで増加しました(図3)。

4)神経細胞の活性化がマイクログリアによるシナプス貪食を促進する
発達期のシナプス刈り込みにおいて、マイクログリアは神経活動が相対的に弱いシナプスを 貪食することが示唆されています。そこで、顆粒神経細胞の活動上昇がシナプス貪食を促進さ せる可能性を検証しました。本研究では、designer receptors exclusively activated by designer drugs (DREADD) システムを用いました。このシステムは、遺伝子改変型 G タンパク質共役 型受容体を外在性の基質であるclozapine N-oxide (CNO) によって特異的に活性化させるもの です。マウスの顆粒神経細胞の一部に興奮性 DREADD である hM3Dq を強制発現させ、CNO 投与により神経活動を上昇させたところ、マイクログリアによるシナプス貪食が促進しました (図4)。この結果から、一部の顆粒神経細胞の活動が上昇したことで、シナプス活動に強弱 が生じ、マイクログリアが活動の弱いシナプスを貪食した可能性が考えられます。
以上の結果から、自閉症の発症や治療にマイクログリアによるシナプス貪食が関与すること が示唆されました。

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