2017-12-1 国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(略称:国循)脳血管内科の古賀政利医長、豊田一則副院長、峰松一夫病院長らの研究チームは、脳梗塞を発症した患者に対する低用量プラバスタチン(10mg/日)長期投与による頚動脈硬化の進展抑制効果を、国内多施設の共同研究で証明しました。本研究成果は米国心臓病協会の医学雑誌「Stroke」に平成29年11月30日(米国東部時間)に掲載予定です。
背景
プラバスタチンも含むスタチンは血中コレステロールを減らす医薬品で、スタチン投与による頚動脈硬化進展の抑制効果は、脳梗塞の既往がなくかつ冠動脈疾患や脂質異常症を有する欧米人で確認されていました。
脳卒中の既往がある日本人に対するスタチンの効果を検証するため、心原性脳塞栓症以外の脳梗塞を発症した日本人に低用量プラバスタチンを投与した場合の脳卒中再発予防効果を調べる国内多施設共同無作為割付試験J-STARS(主任研究者:松本昌泰 広島大学神経内科名誉教授/JCHO星ヶ丘医療センター病院長)が実施されました。そのサブ研究として、超音波診断装置で低用量プラバスタチンの頚動脈硬化への影響を調べたJ-STARS Echo研究(主任研究者:峰松一夫 国循病院長、以下「本研究」)を実施しました。
研究手法と成果
本研究に症例登録された793人を10mg/日のプラバスタチンを投与する群(388人)と投与しない群(405人)に無作為に割り付け、登録時から5年後までに1年ごとに頸動脈エコー検査で総頸動脈(注1)の内中膜複合体厚(IMT:注2)を計測しました。エコー検査技術認定を受けた医師や検査技師が全ての頚動脈エコー検査を行いました。その結果、1~2年後の測定結果は両群で差はないものの、3年目からプラバスタチン投与群で頚動脈硬化の進展が緩やかになり、5年目には有意な抑制を確認しました(図)。
今後の課題と展望
日本人は欧米人よりスタチン製剤の感受性が高いことから、わが国では独自の低用量プラバスタチンが長年使用されてきました。本研究により、低用量であっても長期投与により心原性脳塞栓症以外の脳梗塞既往患者の頚動脈硬化進行を抑制し、アテローム血栓性脳梗塞(注3)の再発予防につながることが示唆されました。今後はより強力なスタチン療法での効果と安全性を検証し、日本人に最適な薬物療法の確立を目指します。
<注釈>
(注1)総頚動脈
首の両側にあり、脳につながる血管。総頚動脈は左右顎部の中央辺りで外頚動脈と内頚動脈に分かれるが、その分岐点である頚動脈分岐部は動脈硬化の好発部位である。
(注2)内中膜複合体厚(IMT)
頚動脈の血管壁内腔側の表層を構成する内膜と中膜を合わせた厚み。動脈硬化の進展によって肥大する。一般的にIMTの正常値は1.0mm以下といわれている。
(注3)アテローム血栓性脳梗塞
頚動脈や脳内の太い血管がコレステロールで詰まって起きる脳梗塞。欧米人に多いタイプの脳梗塞だが、日本人にも増えてきている。
<図>総頚動脈の平均内中膜複合体厚の推移
登録から3年後以降はプラバスタチン投与群が動脈硬化の進行が緩やかになっており、5年後の年次変化(平均)はプラバスタチン投与群で0.021±0.116mm/年、非投与群で0.040±0.118mm/年であった。4年目までは有意な差はみられないため、長期投与が頚動脈硬化進行抑制に有効であることが示唆される。
最終更新日 2017年12月1日