遅発性不完全圧着をきたした”消えるステント”の経時的な画像診断による新たな可能性

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2020-08-27 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の大塚文之冠疾患科医長、安田聡 元副院長(現客員部長)、野口輝夫 心臓血管内科部長、藤野雅史 冠疾患科医師らの研究チームは、冠動脈疾患に対するカテーテル治療で、血管を支える役割を一定期間果たした後に分解・吸収されて消失する生体吸収性スキャフォールドを留置された後に遅発性不完全圧着をきたした1症例における、冠動脈造影および光干渉断層画像診断の追跡評価結果に関する症例報告を行い、European Heart Journalオンライン版に、令和2年7月29日に掲載されました。

背景

狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患に対するカテーテル治療では、風船によって冠動脈を拡張させた後に、血管を内側から支える目的で金属ステントを留置する処置が広く行われています。しかしこの金属ステントは異物として体内に残るため、長期的には血管の開存を妨げるなど生体にとって不利益になるのではないかという懸念が持たれています。
生体吸収性スキャフォールド(スキャフォールド=「足場」の意)は、留置された血管を支える役割を一定期間果たした後に分解・吸収されて消失する、いわば「消えるステント」として登場したデバイスです。様々な臨床試験により、最新式の金属ステントと比較してデバイス血栓症の頻度がやや多いことが報告されたため、現在はこの技術の開発や普及がほぼ中断された状態となっています。生体吸収性スキャフォールドは、金属ステントと比較して厚みのある構造となっているため留置後の血管治癒反応が起こりにくく、血管内腔にデバイスの一部が浮いた状態となる「遅発性不完全圧着」が生じると、これが血栓症を引き起こす一因となる可能性が指摘されています。しかし、この「遅発性不完全圧着」の臨床転帰の詳細は、十分に解明されていないのが実情です。

研究手法と成果

狭心症の診断で左冠動脈前下行枝に生体吸収性スキャフォールド(Absorb bioresorbable vascular scaffold [BVS], アボットバスキュラー社)を留置された1症例において、冠動脈造影および光干渉断層法による画像診断を経時的に施行し、臨床経過を追跡評価しました。生体吸収性スキャフォールド留置後2年目の冠動脈造影では、治療部位に再狭窄は見られませんでしたが、併せて施行した光干渉断層画像診断(注1)では生体吸収性スキャフォールドの一部に著明な「遅発性不完全圧着」が認められました。2剤の抗血小板療法を継続し、留置後3年目に光干渉断層画像評価を行うと、スキャフォールドの不完全圧着の残存が見られましたが、驚くべきことに留置後4年目の評価ではこれらの不完全圧着スキャフォールドが消失しており、5年目には全てのスキャフォールドが完全に消失していることが確認されました(図)。経過中、患者さんには一貫して胸部症状の出現はなく、心電図上の異常も認められませんでした。
本症例報告は、生体吸収性スキャフォールドの著明な遅発性圧着不全の転帰を経時的かつ詳細な画像診断によって追跡し得た、世界的にも前例のない極めて貴重な報告であると考えています。

今後の展望と課題

生体吸収性スキャフォールドは、異物を体内に残さない魅力的なデバイスですが、血栓症のリスクがやや高いことが報告されて以降、その開発や普及が中断される状況に陥っています。今回の我々の報告により、やや長期間の2剤抗血小板療法を必要とする可能性はあるものの、生体吸収性スキャフォールドの遅発性不完全圧着が心血管イベントを生じることなく完全に消失し得る可能性が示されました。将来、このデバイスが再度臨床応用されるためには、更なる技術革新とデバイスの進化が必要ですが、今回の我々の報告は生体吸収性スキャフォールドの課題の一つを克服するための手がかりを与えてくれるものではないかと考えています。

〈注釈〉
(注1)光の干渉性を利用して試料内部の構造を高分解能・高速で撮影する技術。近赤外線を照射して非接触・非侵襲で撮像でき、被爆の心配もなく、人体の様々な器官の断層撮像に用いる。

【 発表論文情報 】
著者: Masashi Fujino, Fumiyuki Otsuka, Teruo Noguchi, Satoshi Yasuda
題名:Fate of late-acquired bioresorbable scaffold malapposition: insights from serial optical coherence tomography
掲載誌:European Heart Journal

〈図〉左冠動脈前下行枝に留置された生体吸収性スキャフォールド(bioresorbable vascular scaffold [BVS])の冠動脈造影(A~D)および光干渉断層画像所見(E~J)の経時的変化

遅発性不完全圧着をきたした”消えるステント”の経時的な画像診断による新たな可能性

医療・健康
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