2021-01-21 東京大学
東京大学大学院薬学系研究科の金井求教授、川島茂裕特任講師、山次健三助教らの研究グループは、生細胞内でヒストンタンパク質中の狙ったリジン残基をアセチル化する化学触媒系の開発に初めて成功しました。
ヒストンは様々な翻訳後修飾を受けることでエピゲノムを構成し、クロマチン構造及び遺伝子発現の動的な制御に関与しています。ヒストン修飾の異常は、がん、腎臓・代謝疾患、精神・神経疾患、アレルギー・免疫疾患、産婦人科疾患など様々な疾患に関わるため、ヒストン修飾を人工的・化学的に導入することができれば、エピゲノム異常が関わる様々な疾患の原因解明および治療につながることが期待されています。しかし、遺伝子操作を使うことなく生細胞内においてヒストン修飾を化学的に導入し、エピゲノムに介入した例はこれまで報告がありませんでした。
本研究グループは、生体内酵素のようにタンパク質の翻訳後修飾を触媒する化学触媒、特にヒストンに様々なアセチル化修飾を人為的に導入できる化学触媒の開発を行ってきましたが、これまで生細胞内で機能するヒストンアセチル化触媒は存在しませんでした。本研究では、これまでの化学触媒の問題点を解決し、生細胞内で機能する新しい化学触媒の開発に成功しました。さらに、本化学触媒により導入したアセチル化により、転写に関与する重要なヒストン修飾の一つであるH2BK120のユビキチン化が減少することを見出しました。
本成果は、遺伝子操作を用いずに、化学触媒により細胞内のエピゲノムに介入した世界で初めての例となります。本成果により、エピゲノム異常が関わる様々な疾患の原因解明および治療につながることが期待されます。
本成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」(1月19日付)にオンラインで公開されました。
論文情報
Yusuke Fujiwara, Yuki Yamanashi, Akiko Fujimura, Yuko Sato, Tomoya Kujirai, Hitoshi Kurumizaka, Hiroshi Kimura, Kenzo Yamatsugu*, Shigehiro A. Kawashima*, and Motomu Kanai*, “Live-Cell Epigenome Manipulation by Synthetic Histone Acetylation Catalyst System,” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America: 2021年1月19日, doi:https://doi.org/10.1073/pnas.2019554118.
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