2021-04-27 国立遺伝学研究所 北野研究室・生態遺伝学研究室
Tempo and mode in karyotype evolution revealed by a probabilistic model incorporating both chromosome number and morphology in press
Yoshida, K. and Kitano, J.
PLOS Genetics 2021 April 16 DOI:10.1371/journal.pgen.1009502
染色体の数や形すなわち核型は、遺伝物質としてのDNAが発見される以前から、さまざまな生物で観察されてきました。核型の進化は、種分化、組換え率の進化、ゲノムワイドの転写発現制御の進化など多くの進化過程に影響を与える可能性があります。しかし、ここ数十年は、塩基配列を中心とした研究の影で核型進化の研究はあまり注目されてきませんでした。その理由の一つは、塩基配列に関する分子進化モデルが遺伝研の先人たちを中心に確立されてきた一方、核型進化を解析するための適切なモデルがなかったことに起因します。
この度、生態遺伝学研究室の吉田恒太研究員(現・マックスプランク研究所)と北野潤教授は、核型進化を解析するための新しいモデルの構築に挑みました。まず彼らが着目したのは、遺伝研の元助教授の今井弘民らが提唱したkaryographです。karyographとは、ハプロイド(半数体)の核型の染色体の腕数をX軸に、染色体の数をY軸にプロットしたグラフであり(図1)、染色体の進化を、このグラフ上での左右・上下の移行として捉える考えです(図2)。
吉田研究員らは、移行の速度に関わるパラメーターを設定し、生物の系統樹の上でどのような核型の進化が起こったのかを調べることができる核型の確率的な進化モデルを構築しました。それを使い、魚類やアブラナ科植物において、祖先の核型の推定や現存する生物の核型の分布をより確かに説明することができる進化のパラメータの推定に成功しました。さらに、核型によって種分化や絶滅率が異なりうるモデルを構築し解析したところ、真鰭類 (Eurypterygii) では腕数が24で染色体数が24の核型で絶滅率が有意に低いこと、骨鰾上目の骨鰾系 (Otophysi)の魚類では腕数が47で染色体数が25、あるいは、腕数が54で染色体数が27の核型で絶滅率が有意に低いことなどを見出しました。
以上の結果は、生物によって最適な核型が存在し、核型が生物の絶滅率に寄与する可能性を提示する成果です。
本研究は、科研費基盤AとJST CRESTの支援を得て行われました。
図:A.染色体の数や腕数が変化する様子の模式図。
B.国立遺伝学研究所の今井らが提唱したカリオグラフ上での核型の進化。例として、白丸から黒丸への進化の過程を図示。