免疫チェックポイント阻害薬の治療効果をPET画像診断で予測する技術を開発

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がん免疫療法の治療効果予測、個別化医療の実現への応用に期待

2021-06-21 量子科学技術研究開発機構

発表のポイント

  • がん細胞の免疫抑制機構において重要と考えられているインドールアミン酸素添加酵素(IDO1)1)を可視化するPET薬剤を開発しました。
  • 免疫チェックポイント阻害薬2)で治療した悪性黒色腫3)モデルマウスの全身PET4)画像から、治療効果が高い群では腸間膜リンパ節5)にPET薬剤が顕著に高集積し、さらに、その集積量と治療効果の間に相関があることを見出しました。
  • 今後、この技術を用いた臨床試験を展開することにより、がん免疫療法の治療効果の予測や個別化医療の実現に繋がることが期待されます。

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」という。)量子生命・医学部門量子医科学研究所先進核医学基盤研究部 謝琳主任研究員、胡寛研究員、張明栄部長らは、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果をPET画像診断で予測する技術を開発しました。

近年注目されているオプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞に対する免疫細胞の攻撃にブレーキがかかるのを防ぎ、免疫によるがん細胞の排除効果を維持します。しかし、その効果には個人差があることがわかってきており、治療効果の予測に利用できる指標や診断法の開発が強く求められています。

治療効果を予測する指標の一つが、免疫チェックポイント阻害薬が作用するタンパク質が腫瘍に発現しているかどうかです。例えば、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体)の効果予測ではPD-L1タンパク質の発現が指標になります。

ところが、PD-L1の発現は、抗がん剤などの使用によって変化するという報告があるなど、腫瘍は治療によって形や大きさだけでなく、免疫チェックポイント阻害薬に対する応答が変化することがあります。免疫は全身的な応答であることから、腫瘍以外の部分についても免疫チェックポイント阻害薬への免疫応答を調べることが重要と考えられます。

そこで本研究では、がん細胞の免疫抑制機構において重要な役割を担うと考えられているインドールアミン酸素添加酵素(IDO1)に結合するPET薬剤(11C-l-1MTrp)を開発し、免疫チェックポイント阻害薬治療に対するIDO1の免疫応答を全身で可視化しました。

IDO1阻害薬を用いて治療した悪性黒色腫のモデルマウスに11C-l-1MTrpを投与して撮像した結果、腫瘍よりも腸間膜リンパ節に11C-l-1MTrpが顕著に高集積していることを発見しました。この結果を受け、11C-l-1MTrpを用いたPET画像診断が、がん免疫治療効果予測法として汎用できるか確認するため、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体及び抗CTLA-4抗体)で治療中の悪性黒色腫のモデルマウスをPETで撮像し、その後の腫瘍増殖を観察しました。その結果、腸間膜リンパ節における11C-l-1MTrp集積が多いほど、治療効果が高く、両者の間に相関関係があることを明らかにしました。

これらの成果は、腸間膜リンパ節における11C-l-1MTrp集積量が、オプジーボなどによるがん免疫治療効果を予測する指標になり得ることを示しています。この技術は、がん免疫療法の治療効果予測や、個別化医療の実現への応用が期待されます。その実現を目指し、今後、この技術を臨床試験に展開して治療効果を予測する技術としての有用性を評価していきたいと考えています。

本研究は、JSPS二国間交流事業JPJSBP120207203、JSPS科研費20H03635の支援を受けて実施されたもので、腫瘍免疫学やがん免疫療法の分野でインパクトの大きい論文が発表されている科学誌「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」2021年6月21日(月)7:00(日本時間)にオンライン掲載されました。

研究の背景と目的

​ 近年注目されているオプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞に対する免疫細胞の攻撃にブレーキがかかるのを防ぎ、免疫によるがん細胞の排除効果を維持します。しかし、その効果には個人差があることがわかってきており、治療効果の予測に利用できる指標や診断法の開発が強く求められています。

治療効果を予測する指標の一つが、免疫チェックポイント阻害薬が作用するタンパク質が腫瘍に発現しているかどうかです。例えば、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体)の効果予測では、検査や手術で採取した腫瘍組織を免疫染色してPD-L1タンパク質が発現しているかを調べます。

しかし、採取した検体の状態によっては目的のタンパク質の発現を正確に見られない場合があります。また、この方法で腫瘍組織にPD-L1タンパク質の発現を調べたところ、PD-L1は抗がん剤などの使用によってその発現が変化するという報告があるなど、腫瘍は治療によって形や大きさだけでなく、免疫チェックポイント阻害薬に対する応答が変化することがあります。

免疫は全身的な応答であることから、腫瘍以外の部分についても免疫チェックポイント阻害薬への免疫応答を調べることが重要と考えられます。そこで、免疫調節因子であるインドールアミン酸素添加酵素(Indoleamine 2,3-dioxygenase 1:IDO1)に着目しました。IDO1は免疫細胞の一つであるT細胞の機能を抑制して、過剰な免疫反応を防ぐ働きを担います。腫瘍ではその発現が増加しており、これががん細胞の免疫逃避機構に関わるとして注目されています。

本研究では免疫療法に対する全身の免疫応答を調べ、その応答が治療効果予測に利用できる指標となるかを調べるために、IDO1に結合するPET薬剤(11C-l-1MTrp)を開発し、免疫療法を行った悪性黒色腫モデルマウスでIDO1の発現を陽電子断層撮像法(PET)で解析しました。

研究の手法と成果

1.ETによる複合免疫治療前後でのIDO1発現を測定
悪性黒色腫細胞(B16F10)を移植したマウスに、臨床試験で汎用されている治療と同様に、抗がん剤のシクロホスファミド(Cyclophosphamide, CPA)7)とIDO1阻害薬L-1MTrpを組み合わせる複合免疫治療を行いました。投与は、細胞移植から、7、10、13、16日後に行いました。また、未治療と治療終了後(細胞移植23日後)にPET薬剤(11C-L-1MTrp)を投与してマウスの全身をPETで撮像しました(図1A)。​

PET薬剤は治療が終わった後で投与しており、投与量も治療に必要な濃度の1/20000と低濃度であるため、PET薬剤による治療への影響は無いと考えられます。

その結果、未治療群に比べ、腫瘍の増殖が著しく抑制された治療群では、腸間膜リンパ節に11C-L-1MTrpが高集積していることを発見しました(図1B)。IDO1は腫瘍では、がん細胞と免疫細胞の両方で発現が高いとされていますが、この結果は、腫瘍よりも腸間膜リンパ節においてIDO1が治療によって高く誘導されていることを示しています。

免疫は全身反応なので、IDO1阻害薬の投与により、全身の免疫が異物(腫瘍においてはがん細胞)を排除するようになると考えられますが、腸間膜リンパ節が属する腸管免疫系は脾臓や末梢リンパ節を中心とする全身免疫系と違い、独自の免疫系を構築しています。この腸管免疫系は腸間膜リンパ節などを形成し、病原性細菌など有害抗原に免疫応答を発動し、排除する一方、食物性タンパク質、強制細菌など無害抗原には反応しないように制御しています。この本来の働きが妨げられないよう、複合免疫治療後の腸間膜リンパ節ではIDO1が誘導されて、免疫機能が調整されていると考えられました。

図1. 未治療と治療後の担癌マウスの全身PETイメージング画像(A)
及び腸管膜リンパ節における放射能の定量値(B)


そこで、11C-l-1MTrpを用いたPET画像診断が、がん免疫治療効果予測法として汎用できるか確認するため、腸間膜リンパ節における11C-l-1MTrp集積量と、IDO1阻害薬以外の免疫チェックポイント阻害剤による複合免疫治療効果との間に関係があるかを調べました。

2.11C-l-1MTrp集積量と免疫治療効果との関係を解析

PD-1抗体と 抗CTLA4抗体及び CPAを組み合わせる複合免疫治療を行い、32日目まで腫瘍の増殖を調べました。また、移植後13日目と25日目に11C-l-1MTrpを投与してPETで撮影しました(図2A)。

 11C-l-1MTrpの集積を解析しました。その結果、13日目、25日目ともにグループbの方が11C-l-1MTrpが高集積していることが分かりました (図2C)。なお、腫瘍における11C-l-1MTrpの集積には両群の間にほとんど差はありませんでした。

 11C-l-1MTrpの集積量との関係を解析したところ、両者の間に負の相関があり、腫瘍の増殖が抑えられサイズの変化率が小さい(治療効果が高い)ほど、11C-l-1MTrpの集積量が多いことが明らかとなりました(図2D)。

複合免疫治療とPET撮影スケジュール(A)、移植後の腫瘍の成長曲線(B)、治療効果が異なる両群の腸間膜リンパ節における放射能の定量値(C)、腸管膜リンパ節における放射能の定量値と腫瘍サイズの変化比率との相関(D)

図2.複合免疫治療とPET撮影スケジュール(A)、
移植後の腫瘍の成長曲線(B)、
治療効果が異なる両群の腸間膜リンパ節における放射能の定量値(C)、
腸管膜リンパ節における放射能の定量値と腫瘍サイズの変化比率との相関(D)

今後の展開

本研究により、腸間膜リンパ節における11C-l-1MTrp集積量が、免疫療法の治療効果を予測する指標になり得ることが示されました。この技術は、オプジーボなどによるがん免疫療法の治療効果予測や、個別化医療の実現への応用が期待されます。その実現を目指し、今後、この技術を臨床試験に展開して治療効果を予測する技術としての有用性の評価に取り組むとともに、これまで調べることができなかった生体におけるIDO1の発現を解析することにより、IDO1によるがん免疫抑制機構に迫り、新たながん治療法の創出に繋げていきたいと考えています。

用語解説

1)インドールアミン酸素添加酵素(IDO1)
T細胞の増殖や活性化に必要なトリプトファンをキヌレニンに代謝するキヌレニン経路の律速酵素。免疫細胞に発現し、過剰な免疫反応を防いで体内の恒常性を維持する役割を担っています。ところが、腫瘍ではがん細胞と免疫細胞の両者でIDO1の発現が増加し、T細胞の増殖が抑制され、がん細胞が攻撃されにくくなると考えられています。

2)免疫チェックポイント阻害薬
免疫細胞(T細胞)の働きを抑制する分子を標的とした、がん治療薬です。T細胞の働きを抑制する分子には、PD-1、CTLA-4、PD-L1、IDO-1などがあり、がん細胞はこれらの分子を利用して免疫細胞による攻撃にブレーキをかけています。免疫チェックポイント阻害薬はこれらの分子に作用して、ブレーキを解除することでT細胞による攻撃力を維持します。

3)悪性黒色腫
皮膚、眼窩内組織、口腔粘膜上皮などに発生するメラノサイト由来で転移しやすく、予後不良の悪性腫瘍です。正確な発生原因は不明ですが、表皮基底層部に存在するメラノサイトの悪性化によって発症します。また、皮膚に発生する悪性黒色腫は紫外線ばく露と、足底に発生するものは機械的刺激と関連性が深いと考えられます。

4)PET(Positron Emission Tomography)
​​ 陽電子断層撮像法の略称。身体の中の生体分子の働きを見ることができる画像診断法の一種。特定の放射性同位体で標識した放射性薬剤を投与し、その薬剤から放射される陽電子に起因するガンマ線を検出することによって、生体内の分子の分布や量、時間変化を測定できます。

5)腸間膜リンパ節
腸間膜リンパ節は,右中腹部から右下腹部で結腸領域の腸間膜リンパ節が観察され,左上腹部から左中腹部で小腸領域の腸間膜リンパ節が観察されます。腸間膜リンパ節は、腸間膜リンパ液に入り込んだ細菌やウイルス、がん細胞などの異物をせき止めて排除し、外敵から体を守ります。一方、他の領域のリンパ節と違い、腸間膜リンパ節は、小腸から取りこまれたタンパク質、糖、脂肪、電解質を見分け、必要なもののみを吸収し、必要でないものを排除する役割を果たします。

6)IDO1阻害薬
腫瘍細胞自身と免疫系細胞における IDO1 発現およびその誘導は、腫瘍の免疫寛容の成立に深く関与しています。従い、IDO1 活性を抑制することによる、腫瘍の免疫寛容状態の解除をターゲットとしてがん治療効果に期待した IDO1 阻害薬の探索が進められています。また、IDO1 阻害薬を抗がん薬などの治療と併用して行うことは予後不良症例において有効な効果をもたらすと期待されています。IDO1 阻害薬として研究に汎用されている分子は,本研究でも用いられている1-MTrp(1-methyl tryptophan)であり,悪性黒色腫マウスモデルにおいて1 – MTrp 投与による腫瘍の抑制効果が知られています。また、乳がんモデルマウスにおいて 1 – MTrp の抗腫瘍効果について検討が行われており、抗がん薬と 1-MTrp との併用により抗腫瘍効果の増強が認められています。

7)シクロホスファミド(英語: Cyclophosphamide、略称:CPA)
アルキル化剤に分類され、世界で広く用いられている抗悪性腫瘍剤(化学療法抗がん剤)です。また、抗体産生中のBリンパ球の増殖を妨げる免疫抑制作用があり、臓器移植時の拒絶反応を抑える免疫抑制剤として使われるほか、膠原病(全身性エリテマトーデス、血管炎症候群、多発血管炎性肉芽腫症など)の治療などで使用することもあります。

論文について

Off-tumor IDO1 target engagements determine the cancer- immune set point and predict the immunotherapeutic efficacy

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