線維芽細胞が白血球を心臓に呼び寄せて炎症や心不全を起こす

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2021-10-12 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の大津理事長とキングスカレッジロンドン(英国)、インペリアルカレッジ(英国)、インジアナ大学(米国)の研究チームは、マウスを用いて心不全の際に心臓の機能に障害を与える炎症細胞を血液から心臓に呼び寄せるのは心臓線維芽細胞であることを発見しました。本研究成果はアメリカ科学振興協会の学術雑誌「Science Signaling」に、令和3年10月12日(日本時間:令和3年10月13日午前3時)に掲載されます。

心不全は日本を含めた先進国で発症率の高い病気です。また高齢者に多いためこれからの超高齢社会では増加することが予想されています。そのため病気の原因を明らかにして有効な治療法の開発が急務です。生活習慣病や動脈硬化、がん、神経変性疾患、自己免疫疾患など慢性病の発症や進展には細菌やウイルス感染は関与しない炎症(無菌性炎症)が重要な役割を果たしていることが知られています。心不全も例外ではなく無菌性炎症が病気の発症に関わっています。高血圧などの圧負荷が心臓に加わると血液中の白血球が心臓内に侵入して無菌性炎症が起こります。白血球、特に単球が心臓内で分化したマクロファージは心臓に障害を及ぼします。単球はCCL2と呼ばれる分子(ケモカイン)によって遊走します。心臓には心筋細胞、線維芽細胞、内皮細胞、平滑筋細胞など多種類の細胞が存在します。心臓の数多くの細胞の内、どの細胞がCCL2を産生して心臓内に単球を引き付けるか、これまでわかっていませんでした。

研究手法と成果

線維芽細胞は心臓内で心筋細胞と同程度の数が存在する主な構成細胞で構造を保持する役目をしています。圧負荷後にマウス心臓から単離した線維芽細胞はCCL2を発現していました。そこで一つ一つの線維芽細胞にどんなメッセンジャーRNAが発現しているか調べるとその発現パターンから11種類に分類されました。そのうち一つの細胞群はCCL2などの炎症を起こす分子を高発現していたので炎症性線維芽細胞と名付けました。炎症性線維芽細胞に高発現している分子はNF-kBと呼ばれる転写因子で調整されている分子でした。さらに線維芽細胞内のみでNF-kBが活性化しないマウスを作成して圧負荷をかけると心臓に単球やマクロファージの蓄積がなくなるとともに心不全への進行が抑制されました。つまり線維芽細胞は細胞間を接着し臓器の構造を保つ静的なものと思われていましたが炎症を起こすという機能を持っていることが明らかになりました。心臓に圧がかかると心臓線維芽細胞でNF-kBが活性化してCCL2が産生されそしてCCL2が血中の単球を心臓に引き付け心臓内でマクロファージに分化して心筋細胞に障害を与え心不全になることがわかりました。

今後の展望と課題】

炎症性線維芽細胞の特徴をさらに検討してその活性を抑制する化合物を同定し、新規の心不全治療薬の開発につなげたいと考えています。

■謝辞

本研究は、British Heart Foundation, the Fondation Leducq, the European Research Council , Japan Society for the Promotion of Science KAKENHI, National Institutes of Health により支援されました。

■発表論文情報

著者: Hajime Abe, Yohei Tanada, Shigemiki Omiya, Mihai-Nicolae Podaru, Tomokazu Murakawa, Jumpei Ito, Ajay M. Shah, Simon J. Conway, Masahiro Ono, and Kinya Otsu

論文名: NF-κB activation in cardiac fibroblasts results in the recruitment of inflammatory Ly6Chi monocytes in pressure-overloaded hearts

掲載誌: Science Signaling

参考

単球:白血球の成分の一種であり、感染に対する防衛の開始に重要な細胞です。分化するとマクロファージになります。

マクロファージ:白血球の成分の一種で体内に細菌やウイルスなどが侵入するとマクロファージが食べて死滅させます。

線維芽細胞:コラーゲンを作り出したり弾力を保つための細胞。

ケモカイン:サイトカインの一種で、その中でも主に、白血球の遊走を誘導するもののことを指します。

メッセンジャーRNA(mRNA):遺伝子から転写されるたんぱく質の設計図

転写因子:遺伝子の発現をオンオフするタンパク質

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