ニコチンアミド由来新規天然物群の生合成経路の発掘に向けて
2021-12-09 東京大学
天然由来アルカロイドは未知の生合成反応によって合成されるものが数多く存在し、これらの中から新規な骨格形成酵素の発掘が期待されます。特異なテトラヒドロアザインダン骨格を持つアルテミシジンは抗腫瘍活性を持つ細菌由来抗生物質として知られていました。
東京大学大学院薬学系研究科の阿部郁朗 教授、淡川孝義 准教授、レナ・バラ 特別研究員、白井孝平 大学院生らの研究グループは、アルテミシジン生合成経路を同定し、その生合成中の初発反応として、補酵素β-NADとSAMを基質として受け入れ、二回のC-C結合形成により、ジヒドロアザインダン生成物を与える新規生合成酵素SbzPを同定しました。生体内での酸化反応の補酵素として広く知られているβ-NADを、天然物の基本骨格生合成反応の基質として受け入れ、生成物を与える酵素としては、最初で唯一の報告になりました。さらに、SbzP相同遺伝子は100種近くのグラム陽性、グラム陰性細菌ゲノムに広く分布し、これらがそれぞれSbzPと同一の生成物を与えることを示し、同様の生合成経路が天然に幅広く存在することを明らかにしました。
本研究成果は、医薬品シードとして有望なアルテミシジンの生合成経路の解明、これまでに前例のない基質特異性、反応性を持つ酵素反応の同定など、学術的意義がきわめて高く、今後、合成生物学や生合成工学を駆使して、有用天然物の大量安定供給や、創薬研究への貢献が大いに期待されます。
論文情報
Lena Barra, Takayoshi Awakawa, Kohei Shirai, Zhijuan Hu, Ghader Bashiri, and Ikuro Abe, “β-NAD as a building block in natural product biosynthesis,” Nature: 2021年12月8日, doi:10.1038/s41586-021-04214-7.
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