2022-09-05 京都大学
山下高廣 理学研究科講師、酒井佳寿美 同研究員、池内大樹 同修士課程学生(研究当時)、藤藪千尋 同博士課程学生、今元泰 同准教授の研究グループは、軟体動物サメハダヒザラガイの光センサータンパク質がヒトの眼の光センサータンパク質と同じ特徴を持つことを明らかにし、ヒトとサメハダヒザラガイの光センサータンパク質が独立して同じように進化した「パラレルワールド」である可能性を見出しました。
ヒトを含む脊椎動物の視覚に関わる光センサータンパク質ロドプシンは、脊椎動物の先祖が持っていたと思われる光センサータンパク質に比べて、光を受けた後のシグナル伝達の効率(シグナル増幅効率)が高く、この性質は脊椎動物のロドプシンが進化の過程で新たに特別なアミノ酸残基を獲得したことに由来すると考えられています。そして、この特別なアミノ酸残基を持つ光センサータンパク質は、脊椎動物以外に見つかっていませんでした。本研究では、軟体動物のサメハダヒザラガイの1種が持つ青色光感受性タンパク質が、この特別なアミノ酸残基を持つものの、脊椎動物のロドプシンほどシグナル増幅効率を高めていないことを見出しました。この結果は、サメハダヒザラガイと脊椎動物の光センサータンパク質は、収斂進化によって特別なアミノ酸残基を獲得したものの、サメハダヒザラガイとは異なり脊椎動物のみがさらに特殊な分子構造を獲得しシグナル増幅効率を高め、これが脊椎動物の持つ感度のよい視覚機能の獲得に貢献していると考えられました。
本研究成果は、2022年8月24日に、国際学術誌「Cellular and Molecular Life Sciences」にオンライン掲載されました。
図:脊椎動物とサメハダヒザラガイの光センサータンパク質の「パラレルワールド」的進化
脊椎動物の視覚を担うロドプシンのシグナル増幅効率の上昇をもたらした特別なアミノ酸残基(緑星)は、進化的に独立に軟体動物のサメハダヒザラガイの光センサータンパク質も獲得していた(緑星)。
研究者のコメント
「脊椎動物とは5億年以上前に系統的に分かれた軟体動物の中に、ヒトの光センサータンパク質と同じような進化を遂げようとしていたものがあったことはとても驚きでした。脊椎動物の祖先とサメハダヒザラガイの祖先が、どのような生息環境で光センサータンパク質を「パラレルワールド」的に変化させたのか、タイムトラベルで知ることができればイイですね。」(山下高廣)
研究者情報
研究者名:山下 高廣
研究者名:今元 泰