肺の末梢感覚神経が喘息様気道炎症を軽減させるメカニズムを解明 〜気管支喘息の新規治療法の確立に結びつく可能性も〜

ad

2024-01-16 国立成育医療研究センター

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵 理事長:五十嵐隆)免疫アレルギー・感染研究部の溜雅人研究員、松本健治部長、森田英明室長とマウントサイナイ医科大学(米国)のBrian S. Kim教授らの研究グループは、肺の末梢感覚神経が喘息様気道炎症を軽減させるメカニズムに関する研究を行いました。
一般的にアレルギー性疾患の炎症は、活性化した免疫細胞が炎症を制御するために放出するサイトカイン(インターロイキン(IL-4/5/13)など)とその受容体、そしてサイトカインが受容体に結合した後に情報伝達するための酵素(JAK1)1が、重要な役割を担っています。本研究ではJAK1が働かないもしくは過剰に働くマウスなどを作成し、そのマウスのアレルギー性炎症の重症度や、末梢感覚神経の働きなどを調べました。
その結果、肺の末梢感覚神経のJAK1が神経ペプチドのCGRPb2を介して2型自然リンパ球(ILC2)3の働きを抑えることで、喘息様気道炎症を軽減させることを明らかにしました(図1)。

肺の末梢感覚神経が喘息様気道炎症を軽減させるメカニズムを解明 〜気管支喘息の新規治療法の確立に結びつく可能性も〜

一方で、皮膚の末梢感覚神経のJAK1は主に痒みを伝達し、かきむしることによる皮膚障害を介してアレルギー性の炎症を悪化させることが、これまでの研究から分かっています。今回、肺の末梢感覚神経のJAK1がアレルギー性の炎症を軽減させることが分かったことにより、末梢感覚神経におけるJAK1の役割は臓器によって異なることが明らかになりました(図2)。これは、組織によって異なるJAKの機能を標的とした治療が炎症の制御に効果的である可能性を示唆しており、気管支喘息をはじめとしたアレルギー疾患の将来的な予防や新規治療の開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は、生命科学で最も権威のある国際的な学術雑誌の1つ「Cell」に2024年1月4日(米国時間)掲載されました。

0116_2.png

  1. Janus Kinases(JAKs):様々なサイトカイン受容体の下流に位置し、細胞内での情報伝達を担う酵素。JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2に分類され、細胞増殖や転写などを制御する。
  2. Calcitonin gene-related protein (CGRP):神経伝達物質として知られる神経ペプチドの1種で、CGRPαとCGRPbの2つがある。強力な血管拡張作用や胃酸分泌の抑制を引き起こし、近年では片頭痛の原因となることが知られ、このCGRPの阻害薬が片頭痛の治療薬として開発されている。一方、様々な免疫細胞がCGRPの受容体を発現していることから、免疫細胞の活性化にも関わることが注目されている。
  3. 2型自然リンパ球(ILC2):アレルギー疾患の病態形成に重要な役割を果たす免疫細胞。組織の障害などを認識し、IL-4やIL-13などのサイトカインを大量に放出してアレルギー性炎症を制御している。

プレスリリースのポイント

  • 肺の末梢感覚神経が、喘息様気道炎症を軽減させるメカニズムを解明しました。
    そのメカニズムは、肺の末梢感覚神経におけるJAK1が神経ペプチドのCGRPbを介して2型自然リンパ球(ILC2)の働きを抑えることです。
  • アレルギー性の炎症における末梢感覚神経JAK1の役割は、皮膚では主に痒みを伝達し、かきむしることによる皮膚障害を介して炎症を悪化させるのに対し、肺では逆に炎症を軽減させるように働くことを見出しました。これは、臓器によってJAK1の役割が異なることを意味します。
  • 本研究成果は、臓器によって異なるJAK1の機能を標的とした治療が炎症の制御に効果的である可能性を示唆しており、気管支喘息をはじめとしたアレルギー疾患の将来的な予防や新規治療の開発に貢献することが期待されます。

研究概要

  1. JAK1(サイトカインが受容体に結合した後に情報伝達するための酵素)が過剰に働くマウスを作成し、アレルギー様炎症の自然発症の有無を調べました。
  2. すると、マウスの皮膚ではアトピー性皮膚炎様の炎症が生後早期から自然発症したのに対し、肺では成人年齢相当でも炎症を認めませんでした。
  3. 肺ではJAK1が免疫細胞の働きを抑えるように働くメカニズムが存在するのではないかと考え、非免疫細胞でJAK1が過剰に働くマウスを作成しました。そのマウスに喘息様気道炎症を起こして観察したところ、通常のマウスに比べて炎症が軽減することを見出しました。
  4. 次に、末梢感覚神経でのみJAK1が働かないマウスを作成して喘息様気道炎症を起こしたところ、通常のマウスに比べて炎症が悪化しました。
  5. さらに、先のマウスとは対照的に、末梢感覚神経でのみJAK1が過剰に働くマウスを作成し喘息様気道炎症を起こしたところ、炎症が軽減されることを見出しました。
  6. これらの結果から、肺の末梢感覚神経におけるJAK1がアレルギー性の炎症を軽減させるように働くことが分かりました。
  7. 次に、マウスの肺の末梢感覚神経において免疫細胞の活動を制御する可能性がある神経ペプチドの遺伝子発現レベルを調べました。
  8. すると、肺の末梢感覚神経でJAK1が過剰に働くマウスでは、神経ペプチドのCGRPbが気道中で有意に増加しており、CGRPbがJAK1によって制御されていることが分かりました。
  9. さらに、このCGRPbが肺のアレルギー性炎症に関わる免疫細胞(ILC2)の働きを抑制していることを確認し、CGRPbを吸入させることで喘息様気道炎症を軽減させることを見出しました。
  10. これらの結果から、肺の末梢感覚神経におけるJAK1は、CGRPbを介してILC2の機能を抑制し、喘息様気道炎症を軽減させるように働くと結論しました。
発表論文情報

論文タイトル:Sensory Neurons Promote Immune Homeostasis in the Lung
雑誌名:Cell
著者:溜雅人1,2,3,4,5,6 ,Kate L. Del Bel7, Aaron M. Ver Heul8, Lydia Zamidar1,2,3,4, 折茂圭介6, 星雅人9,10 , Anna M. Trier11, 矢野広12,13,14, Ting-Lin Yang11, Catherine M. Biggs7, 本村健一郎6, 渋谷倫太郎1,2,3,4, Chuyue D. Yu15,16, Zili Xie1,2,4, 入來景悟1,2,3,4, Zhen Wang1,2,3,4, Kelsey Auyeung1,2,3,4, Gargi Damle17,18, Deniz Demircioglu17,18, Jill K. Gregory19, Dan Hasson17,18,20,21, Jinye Dai22,23, Rui B. Chang15,16,24, 森田英明6,25, 松本健治6, Sanjay Jain9,10, Steven Van Dyken9, Joshua D. Milner26, Dusan Bogunovic3,17,20,27,28,29,30, Hongzhen Hu1,2,4, David Artis12,13,14,24,31, Stuart E. Turvey7, Brian S. Kim1,2,3,4,24

1) Kimberly and Eric J. Waldman Department of Dermatology, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
2) Mark Lebwohl Center for Neuroinflammation and Sensation, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
3) Marc and Jennifer Lipschultz Precision Immunology Institute, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
4) Friedman Brain Institute, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
5) Department of Pediatrics, Jikei University School of Medicine
6) 国立成育医療研究センター免疫アレルギー・感染研究部
7) Department of Pediatrics, British Columbia Children’s Hospital, University of British Columbia
8) Division of Allergy and Immunology, Department of Medicine, Washington University School of Medicine
9) Department of Pathology and Immunology, Washington University School of Medicine
10) Division of Nephrology, Department of Medicine, Washington University School of Medicine
11) Division of Dermatology, Department of Medicine, Washington University School of Medicine
12) Jill Roberts Institute for Research in Inflammatory Bowel Disease, Weill Cornell Medicine, Cornell University
13) Joan and Sanford I. Weill Department of Medicine, Division of Gastroenterology and Hepatology, Weill Cornell Medicine, Cornell University
14) Department of Microbiology and Immunology, Weill Cornell Medicine, Cornell University
15) Department of Neuroscience, Yale University School of Medicine
16) Department of Cellular and Molecular Physiology, Yale University School of Medicine
17) Tisch Cancer Institute Bioinformatics for Next Generation Sequencing (BiNGS) Core, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
18) Skin Biology and Disease Resource-based Center, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
19) Digital and Technology Partners, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
20) Department of Oncological Sciences, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
21) Graduate School of Biomedical Sciences, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
22) Department of Pharmacological Science, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
23) Department of Neuroscience, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
24) Allen Discovery Center for Neuroimmune Interactions
25) 国立成育医療研究センターアレルギーセンター
26) Division of Allergy, Immunology, and Rheumatology, Department of Pediatrics, Columbia University Vagelos College of Physicians and Surgeons
27) Department of Microbiology, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
28) Center for Inborn Errors of Immunity, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
29) Mindich Child Health and Development Institute, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
30) Department of Pediatrics, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
31) Friedman Center for Nutrition and Inflammation, Weill Cornell Medicine, Cornell University

DOI:https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.11.027

本件プレスリリースのPDFダウンロード

本件に関する取材連絡先
国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
医療・健康
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました