従来まで治療法のなかった進行型多発性硬化症の原因解明~ギャップ結合阻害による新規治療法開発に期待~

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2024-06-25 九州大学

医学研究院
山﨑 亮 准教授

ポイント

  • 多発性硬化症(MS)は若年女性に多い中枢神経系(※1)の自己免疫性脱髄性疾患です。患者の約2割程度は、発症後約20年で緩徐進行性の二次性進行型MS(SPMS)に移行します。今のところSPMSにおける病態進行を止めるのに十分に有効な治療法がありません。
  • 本研究では、SPMSの新規治療法開発を目指し、SPMSの動物モデルを用いて、新規に共同開発したギャップ結合蛋白「コネキシン(※2)」阻害薬の治療効果を検証したところ、高い治療効果を示しました。
  • 本薬剤は従来の免疫抑制治療とは全く異なり、中枢神経系常在細胞であるグリア細胞を標的とした初めての治療薬となりうる可能性が高く、その社会的な意義は極めて大きいと考えられます。

概要

MSは、若年女性に多い中枢神経系の自己免疫性脱髄疾患で、多くは発症初期に再発・寛解を繰り返します(再発寛解型)が、一部の症例で経過中に再発に寄らない病状の進行を呈するようになる二次性進行型)となります。従来は欧米に多い疾患でしたが、食生活の多様化やグローバリゼーション等により本邦でも患者数は増加傾向にあります。世界で約300万人の患者がおり、日本でも2万人を超える患者がいると考えられています。再発寛解型MSは末梢血由来の自己反応性免疫細胞が主に病態に関わると考えられ、各種疾患修飾薬(※3)による免疫抑制・調整治療が行われています。一方、二次性進行型MSにおける病態進行の仕組みについてはこれまで十分に分かっておらず、完全に病態進行を止める治療法は未だ開発されていません。
本研究では、効果的な二次性進行型MS治療法につながる新たな経路を明らかにしました。
九州大学医学研究院神経内科学分野の山﨑亮准教授、同大学大学院医学系学府博士課程の高瀬・E・オズデミル、国際医療福祉大学医学部の竹内英之教授らは、二次性進行型MSの病態の一部が脳内グリア細胞の異常活性化とその拡散であることを突き止めました。このうち、アストログリア(※4)細胞が発現するギャップ結合蛋白コネキシンの作用を薬理学的にブロックすることにより、グリア細胞からの炎症反応を抑制するメカニズムを発見しました。また、本研究で用いたINI-0602は、新たな作用機序を持つMS治療薬として有望であることも明らかになりました。今後は、本研究に基に、この経路を標的とした全く新しい治療法の開発が期待されます。
本研究成果は、Springer Nature社「Scientific Reports」誌に2024年5月13日に掲載されました。

従来まで治療法のなかった進行型多発性硬化症の原因解明~ギャップ結合阻害による新規治療法開発に期待~

用語解説

(※1) 中枢神経系
脳と脊髄からなる、神経細胞が集まっている領域のこと。

(※2) コネキシン
コネキシンは膜貫通タンパク質で、6つのコネキシンを結合させてギャップ結合を形成する。イオンとカルシウムの輸送を促進し、細胞間のコミュニケーションを維持する。

(※3) 疾患修飾薬
再発や疾患の進行を遅らせる作用をもった薬剤。

(※4) アストログリア
中枢神経系に最も多く存在する常在細胞で、恒常性を維持し、神経細胞の生存と機能を支える。

論文情報

掲載誌:Scientific Reports
タイトル:Astroglial connexin 43 is a novel therapeutic target for chronic multiple sclerosis model
著者名:Ezgi Ozdemir Takase, Ryo Yamasaki, Satoshi Nagata, Mitsuru Watanabe, Katsuhisa Masaki, Hiroo Yamaguchi, Jun-ichi Kira, Hideyuki Takeuchi, Noriko Isobe.
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-61508-2

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医学研究院 山﨑 亮 准教授

医療・健康
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