ALK融合遺伝子陽性肺がんに対する薬剤耐性変異予測と、既存薬を活用した耐性克服法の発見

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第3世代ALK阻害薬耐性の克服を目指す

2019-01-30  がん研究会,京都大学,理化学研究所,日本医療研究開発機構

概要

ALK融合遺伝子(注1)をもつ肺がん(ALK陽性肺がん)は非小細胞肺がんの患者さんの3~5%程度に見つかるといわれています(日本では推定2000例/年)。ALK融合遺伝子とは受容体型チロシンキナーゼ(注2)をコードするALK遺伝子とEML4などの多量体化する機能を持つたんぱく質をコードする遺伝子が染色体の逆位や転座により融合することでできる強力ながん遺伝子です。ALK融合たんぱく質は、恒常的にALKチロシンキナーゼを活性化し、結果として細胞増殖シグナルを異常に活性化し続けることで細胞ががん化します。このALK陽性肺がんに対しては、ALKチロシンキナーゼを阻害する薬剤(ALK阻害薬、注3)が有効であることが実験的にまた臨床試験により明らかにされており、我が国では、これまでに4つのALK阻害薬が承認され臨床応用されています。これら4つのALK阻害薬の中で、ALK陽性肺がんに対する一次治療薬としては、現在のところ、アレクチニブが最も多く使用されていますが、治療後、数年以内にがん細胞が薬剤耐性化し、がんが再発してしまうことが問題となっています。これまでの研究からアレクチニブ耐性化機構としてALKの薬剤結合部位に存在するG1202R変異(1202番目のグリシン(G)がアルギニン(R)となる変異)やI1171N変異が比較的高頻度に発見されています。これらのアレクチニブ耐性変異に対しても有効な薬剤として期待されているのが、昨年9月に本邦で承認された第3世代ALK阻害薬ロルラチニブです。しかしながら、アレクチニブ耐性後にロルラチニブで逐次治療した後にも耐性が生じることが懸念されており、実際に米国のグループなどからは、ALK阻害薬逐次治療後の耐性機構として2つ以上の変異がALKに生じることが最近報告されました(重複変異)。しかし、それらの克服法はほとんど明らかになっていませんでした(図1)。


図1 本研究の目的

がん研究会の片山量平(がん研究会がん化学療法センター基礎研究部 部長)、岡田康太郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科大学院博士課程)らの研究グループは、ALK陽性肺がんにおいて、アレクチニブ‐ロルラチニブ逐次治療後の耐性機構として新規ALK重複変異体を複数発見し、また、1塩基変異のみでロルラチニブ耐性を示すALK-L1256F変異を発見しました。これら耐性変異体の多くに対しては、既に臨床で使用されてきたALK阻害薬が再び効くようになること、一方でALK阻害薬全てに耐性を示した重複変異の1つは他のチロシンキナーゼABLを標的とする薬剤で克服が可能であることを実験的に証明しました。さらに京都大学の奥野恭史(京都大学大学院医学研究科 教授)、荒木望嗣(京都大学大学院医学研究科 准教授)らの研究グループとの共同研究により、スーパーコンピュータ「京」を用いて従来の耐性変異や今回発見された重複変異と各ALK阻害薬との結合自由エネルギーをMP-CAFEE法(注4)により算出したところ、実験的なデータとシミュレーションで求めた結合親和性に高い相関があることを確認し、in silicoにおける耐性変異予測の可能性を示すことに成功しました。

本研究の成果は、Lancet誌とCell誌が共同でサポートするオープンアクセス誌EBioMedicineに、2019年1月18日に公開されました。

ポイント
  • ALK陽性肺がんにおいて、アレクチニブ耐性変異G1202R変異やI1171N変異後のロルラチニブ治療に耐性となるメカニズムとしてG1202RやI1171Nに新たに変異が蓄積する重複変異を多数発見しました。
  • ロルラチニブ耐性を示すALK重複変異の大半が、既に臨床で使用されているALK阻害薬(クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブ、brigatinib)に再感受性を示すこと、一方であらゆるALK阻害薬に耐性を示すG1202R+L1196M重複変異体は、ABLチロシンキナーゼ阻害剤のAG-957やAdaphostinに感受性を示すことを発見しました。
  • ALKのL1256F単独変異がロルラチニブに高度耐性を示す一方で、アレクチニブに高感受性を示すことを発見し、スパコン「京」を用いた構造シミュレーションから結合親和性低下の理由の一端を明らかにしました。
  • スパコン「京」を用いたMP-CAFEE法などのシミュレーションにより、ALK阻害薬とALK耐性変異体の結合親和性(結合自由エネルギー:ΔG)の算出に成功しました。算出したΔGは実際の薬剤感受性と高い相関関係を示し、シミュレーション精度の高さが示されました。
  • 本研究から、様々なALK阻害薬耐性機構と耐性克服法の候補が示され、治療耐性時に耐性機構が明確にできると、そのメカニズムに合わせた更なる治療の可能性が示されました。将来的にはさらなるシミュレーションの予測精度向上により、コンピューター内で耐性変異と効果的な薬剤の予測が、可能となると期待されます。
論文名、著者およびその所属
論文名:Prediction of ALK Mutations Mediating ALK-TKIs Resistance and Drug Re-purposing to Overcome the Resistance
ジャーナル名:EBioMedicine (Cell誌とLancet誌が共同でサポートする新規オープンアクセス誌)
(※2019年1月18日にオンラインに掲載されました。)
著者:Koutaroh Okada1,2, Mitsugu Araki3,4, Takuya Sakashita1, Biao Ma5, Ryo Kanada6, Noriko Yanagitani7, Atsushi Horiike7, Sumie Koike1, Tomoko Oh-hara1, Kana Watanabe8, Keiichi Tamai9, Makoto Maemondo8, Makoto Nishio7, Takeshi Ishikawa10, Yasushi Okuno3,4, Naoya Fujita1,2, Ryohei Katayama1*
* 責任著者
著者の所属機関:
  1. (公財)がん研究会 がん化学療法センター 基礎研究部
  2. 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻
  3. 理化学研究所 計算科学研究センター
  4. 京都大学大学院 医学研究科
  5. Research and Development Group for In Silico Drug Discovery, Pro-Cluster Kobe, Foundation for Biomedical Research and Innovation
  6. RIKEN Compass to Healthy Life Research Complex Program
  7. (公財)がん研究会 がん研有明病院 呼吸器内科
  8. 宮城県立がんセンター 呼吸器内科
  9. 宮城県立がんセンター 研究所 がん幹細胞研究部
  10. 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科
研究の詳細
背景と経緯

現在、わが国において肺がんは死亡率1位のがん腫であり、肺がんの約8割以上を占める非小細胞肺がんの3-5%にALK融合遺伝子が見つかります。このALK融合遺伝子は2007年に東京大学の間野博行博士らのグループにより、強力ながん遺伝子として肺がん患者から発見されました。ALKは、受容体型チロシンキナーゼと呼ばれるたんぱく質であり、細胞増殖を促進する機能を有しますが、正常組織ではその発現と活性化が厳密に制御されています。しかし、ALK融合遺伝子では、ALK遺伝子が、恒常的に発現し多量体化能をもつML4などの遺伝子と、染色体逆位や転座により融合遺伝子を形成することで、ALK融合たんぱく質が恒常的に発現すると共に多量体化を通じて異常に活性化し、がん化を強力に引き起こします。従って、ALKチロシンキナーゼを阻害することでALK陽性のがん細胞は増殖が抑制され顕著な腫瘍縮小効果が得られます。現在までに、我が国においては4つのALKチロシンキナーゼ阻害薬が承認され、実臨床で使用されています。最初にALK阻害薬として開発・承認された第1世代ALK阻害薬クリゾチニブに比べて、第2世代ALK阻害薬アレクチニブは、1次治療薬として比較する臨床試験においてクリゾチニブの2倍以上の長さの無増悪生存期間(PFS)を示したことから、現在ではアレクチニブがALK陽性肺がん患者の1次治療薬として使用されることが多くなっています。しかし、どれほど高い腫瘍縮小効果がみられても、治療開始から数年以内に耐性化してしまうことが臨床上、問題となっています。アレクチニブ耐性化機構の約半数において、ALKの薬剤結合部位近傍に変異が認められます。特に1202番目のグリシン(G)がアルギニン(R)に変異するG1202R変異や、1171番目のイソロイシン(I)がアスパラギン(N)に変異するI1171N変異が高頻度で出現することが報告されています。現在、これら変異に対する耐性克服薬としては、昨年、我が国が世界に先駆けて臨床承認した第3世代ALK阻害薬ロルラチニブがあります。ロルラチニブはこれらの変異を有するALK肺がん症例にも有効であることが実験室レベルでも臨床試験においても示されています。しかしながら、アレクチニブ耐性後にロルラチニブで逐次治療した後にも耐性が生じることが懸念されており、実際に米国のグループなどからは、逐次治療後の耐性機構として2つ以上の変異がALKに生じ(重複変異)、ロルラチニブに耐性となることが報告されました。しかし、アレクチニブ-ロルラチニブ逐次治療の耐性機構の詳細とそれらの耐性克服法はほとんど明らかになっていません。

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