2024-12-18 京都大学
質量分析(MS)を用いたプロテオミクスは、細胞や組織中のタンパク質およびその翻訳後修飾を網羅的に計測できる技術であり、生命科学研究や医療分野で広く活用されています。その中でも、タンパク質をプロテアーゼで分解し、ペプチド断片にしてからMSで計測する「ボトムアッププロテオミクス」は、最も確立された手法として広く利用されています。この手法は単一細胞レベルの微量タンパク質の計測が可能である一方、核酸のように増幅できないタンパク質の特性上、サンプルのロスを最小限に抑えつつMSに導入する技術が重要です。
金尾英佑 薬学研究科助教(兼:医薬基盤・健康・栄養研究所研究員)、石濱泰 同教授(兼:同招へいプロジェクトリーダー)、田中俊輔 同博士課程学生、富岡郁那 同博士課程学生、小形公亮 同助教、谷川哲也 同研究員の研究グループは、久保拓也 京都府立大学教授との共同研究により、極微量のペプチド精製に適したピペットチップ型固相抽出カラム「ChocoTip」を開発しました。ChocoTipには、熱可塑性の樹脂と疎水性の粒子をハイブリッドした新素材が充填されており、メソ孔を持たない独自の表面によってペプチドの不可逆的な吸着を抑制してサンプルロスを大幅に低減し、従来技術を上回る高性能計測を実現しました。
今回の実験では、HeLa細胞ライセート由来のトリプシン消化ペプチド20 ng(約80細胞相当)を用いてChocoTipの性能を評価しました。その結果、従来のStageTipを使用した場合と比較して、ペプチドの感度および同定数が2倍以上に向上しました。ChocoTipは、臨床プロテオミクスや単一細胞解析といった、極微量サンプルの高感度計測が求められる分野で、幅広い応用が期待されます。
本研究成果は、2024年12月16日に、国際学術誌「Analytical Chemistry」にオンライン掲載されました。
ChocoTipの電子顕微鏡画像(上)と従来法との性能比較(下)。ペプチドの不可逆的吸着を引き起こす疎水性粒子表面のメソ孔が、熱可塑性樹脂によって塞がれている。
研究者のコメント
「ChocoTipの名前は、チョコチップケーキに似た素材の形状に由来するもので、親しみやすさと利便性を兼ね備えた技術として普及してほしいという思いが込められています。今後は、臨床プロテオミクスや単一細胞解析といった極微量サンプル解析への応用をさらに広げるとともに、誰もが容易に利用できる技術として、産学連携による製品化にも取り組みたいと考えています。」(金尾英佑)
詳しい研究内容について
極微量ペプチド用ピペットチップ型カラム「ChocoTip」の開発―臨床プロテオミクスや単一細胞解析を支える新たな前処理技術―
研究者情報
研究者名:金尾 英佑
研究者名:石濱 泰
研究者名:小形 公亮
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1021/acs.analchem.4c03753
【書誌情報】
Eisuke Kanao, Shunsuke Tanaka, Ayana Tomioka, Kosuke Ogata, Tetsuya Tanigawa, Takuya Kubo, Yasushi Ishihama (2024). High-Recovery Desalting Tip Columns for a Wide Variety of Peptides in Mass Spectrometry-Based Proteomics. Analytical Chemistry.