2016-04-15 京都大学
船曳康子 人間・環境学研究科准教授を中心として開発してきた、「発達障害の特性別評価法(Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD、以下MSPA)」が、2016年4月1日より保険収載されました。従来の評価法に比べ生活現場でのニーズを重視した評価尺度で、今後はMSPAによる評価に医療保険が適用されることになり、一般の医療・療育への活用が期待されます。MSPAは、2009~2011年厚生労働科学研究費補助金の支援のもと開発を進め、2012年より新学術領域「構成論的発達」にて展開してきました。今回の保険収載に向けた活動は、社会技術研究開発センター(RISTEX)の研究開発成果実装支援プログラム「発達障害者の特性別評価法(MSPA)の医療・教育・社会現場への普及と活用」の活動を通じて行われました。
1.背景
発達障害への支援は、2004年の発達障害者支援法制定以降さまざまな制度の枠組みが整えられてきました。その過程で診断書に基づいた支援制度も整備されてきましたが、発達障害は個人によって特性が大きく異なるため、個別の対応は試行錯誤が続いていました。これまでの評価ツールは発達障害の診断を重視したものが多く、発達障害者ひとりひとりの個人差へどのように対応すればよいのか、生活場面で当事者がどのように困っているのかといった支援の現場に必要な要素を包括的に評価することができませんでした。
2.MSPAの特徴
MSPAでは、当事者ばかりでなく家族や教師といった異なる立場の多様な支援者が特性の個人差を視覚的に理解できるよう、こだわり・睡眠リズム・反復行動といった要素を5段階でレーダーチャートに示しています(図1)。また、偏見を防ぐという観点から障害や診断名は使わずに特性を示しています。
個人の特性を理解するためには、専門家による一方的な評価だけではなく、本人がどのように・どの程度困っているのかという指標も重要です。そのため、MSPAでは当事者と医師、心理士などの専門スタッフが共同で特性チャートを作成します。国際的な精神医学の診断基準DSM5で発達障害診断時にMSPAと似た概念が取り入れられています。
特性チャートの作成は当事者・養育者からの生活歴の聴取を通して行います。
図1: MSPAのレーダーチャートと特徴
3.波及効果
発達障害者の特性を視覚的に表したMSPAは、当事者と周囲の双方からの特性に対する共通理解を促すことができると考えています。どのような生活現場でどのような支援を必要としているのか、多職種にわたる支援者で共有することは、支援の迅速化やうつ・神経症などの2次障害の予防にもつながります。医療保険が適用されることで医療・支援現場での活用が期待されることから、支援基準の公平化などにも寄与することが期待されます。
4.今後の展開
これまで各地でMSPAの研修会や講習会、シンポジウムを行ってきましたが、今後も精神科医や教師、保健福祉業務に従事する自治体の職員等への理解普及事業を展開していきます。
関連リンク
- 平成26年度採択 研究開発成果実装支援プロジェクト「発達障害者の特性別評価法(MSPA)の医療・教育・社会現場への普及と活用」(社会技術研究開発センターWebサイト)
<http://www.ristex.jp/implementation/development/26funabiki.html>