2022-08-02 国立成育医療研究センター
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)内分泌・代謝科の内木康博医長、分子内分泌研究部の深見真紀部長らのグループは、先天性副腎皮質過形成症(CAH) の中の1つのタイプである11β水酸化酵素欠損症に対する新しい遺伝子治療モデルを開発しました。これは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター を用いたもので、世界で初めてとなる遺伝子治療モデルです。
CAHは、先天的に酵素が欠損していることなどが理由で、副腎皮質でホルモンがうまく作られなくなる遺伝性疾患です。本研究では、その酵素の中で11β水酸化酵素欠損症の患者の線維芽細胞からiPS細胞を作成し、これを副腎皮質細胞に分化させたのちに血清型9型のAAV(AAV9)ベクターを用いて正常な遺伝子を導入しました。すると、副腎皮質細胞での酵素活性を認めました。さらに11β水酸化酵素欠損のモデルマウスを用いて治療効果が長期間持続することも確認できました。
本研究成果は、今後のCAHに対する遺伝子治療の発展に大きく貢献するもので、2022年 7月15日に米国科学雑誌『Human Gene Therapy』に掲載されました。
プレスリリースのポイント
- 先天性副腎皮質過形成症(CAH)の新たな遺伝子治療モデルを開発しました。
- 11β水酸化酵素欠損症の患者の線維芽細胞からiPS細胞を作成し、これを副腎皮質細胞に分化させたのちに血清型9型のAAV(AAV9)ベクターを用いて正常な遺伝子を導入したところ、酵素の働きが活発になり本来作られるホルモンが増加しました。
- さらに、11β水酸化酵素欠損のモデルマウス作成し、その副腎にAAV 9ベクターで遺伝子導入したところ、著しい治療効果と、その効果が長期間にわたり有効であることを確認しました。
- また、CAHの患者の皮膚から線維芽細胞を培養し、AAV2ベクターを用いて正常な遺伝子を導入することで、失われた酵素活性が回復することを21水酸化酵素欠損症、17α水酸化酵素欠損症においても認めました。
- 本研究によって、ほぼすべてのタイプのCAHに対して遺伝子治療が可能であることを世界で初めて明らかにしました。
発表論文情報
英文タイトル:AAV-mediated gene therapy for patients’ fibroblasts, iPS cells, and a mouse model of congenital adrenal hyperplasia
和文タイトル:『AAVベクターをもちいた先天性副腎皮質過形成症の線維芽細胞、iPS細胞、モデルマウスに対する遺伝子治療』
執筆者:内木康博1)、宮戸真美2)、進導美幸3)、堀川玲子1)、長谷川雄一4)、勝又規行2)、
高田修治5)、阿久津英憲6)、小野寺雅史7)、深見真紀1)
1) 国立成育医療研究センター 内分泌・代謝科
2) 国立成育医療研究センター研究所 分子内分泌研究部
3) 国立成育医療研究センター研究所 実験動物管理室
4) 国立成育医療研究センター 泌尿器科
5) 国立成育医療研究センター研究所 システム発生・再生医学研究部
6) 国立成育医療研究センター研究所 再生医療センター生殖医療研究部
7) 国立成育医療研究センター 遺伝子細胞治療推進センター
掲載誌:Human Gene Therapy
DOI:10.1089/hum.2022.005