造血幹細胞の体外増幅技術及び移植予後診断システムを開発~ AMED CiCLE事業の目標を達成。 副作用の少ない他家移植を目指す~ 希少難治性疾患への応用へ期待

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2022-08-03 京都大学医学部附属病院

概要

国立大学法人京都大学(所在地:京都府京都市、総長:湊長博、本研究の分担機関、(研究者:大学院医学研究科 内科学講座血液・腫瘍内科学 教授 高折晃史、医学部附属病院 血液内科 講師 諫田淳也))が、2019年3月に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下「AMED」)、ネクスジェン株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役:中島正和、本研究の代表機関、以下「ネクスジェン」(研究者:CSO 宮西正憲、CISO 宮塚功)) 注1、および神戸市立医療センター中央市民病院(所在地:兵庫県神戸市、院長:木原康樹、本研究の分担機関)と委託研究開発契約を締結した医療研究開発革新基盤創成事業(以下「CiCLE」)注2の研究開発課題「造血幹細胞の体外増幅技術の開発と移植医療への応用(以下「本研究」)」において、「ヒト造血幹細胞(ヒトHematopoietic Stem Cell: ヒトHSC)増幅技術」および「ヒトHSC移植予後予測コンパニオン診断システム」を開発するという目標を達成しました。

本研究の実施内容

ヒトHSC移植は白血病等の血液がんの完治を目指す主な治療法のひとつですが、現在の移植技術ではヒトHSC以外の多くの細胞が含まれることから移植片対宿主病(Graft Versus Host Disease: GVHD)注3 等の重大な副作用が問題となっています。これを解決する方法として長期持続的な造血に関与するヒトHSC(ヒトLT(Long Term)-HSC)を単離し、体外で増幅をする移植技術が期待されています。
また、臨床現場において、ヒトHSC移植のドナー注4 を選別するために用いる既存の指標では、レシピエント注5 におけるヒトHSC移植の予後予測は困難であり、これを解決する方法の開発が望まれています。

そこで本研究では、第一に、移植時の副作用の問題を解決し、ヒトHSC移植後の生着率向上を目的として、ヒトLT-HSCをバイオマーカーにより単離し、体外で高純度に増幅するための培養方法等の最適化を行いました。第二に、ヒトHSC移植の予後予測や患者毎に最適なドナー選択を可能にし、患者QOL(Quality of Life:生活の質)を向上させることを目的として、ヒトHSC移植予後予測コンパニオン診断システムを開発しました。

得られた成果及びその意義

本研究により、培地の開発や新規表面マーカーの同定など新たな造血幹細胞抽出培養技術であるヒトHSC増幅技術及びヒトHSC移植予後予測コンパニオン診断システムを開発しました。ヒト幹細胞の特性や表面マーカーの特徴がより明確となったほか、HSCを増幅するためのアミノ酸組成などの新たな知見も見出すことができました。

本研究の成果により、長年課題であった移植後の副作用問題の改善に繋がる可能性を見出しました。これらの技術の確立はHSCの免疫寛容効果の応用に繋がり、将来的に副作用の少ない他家移植の実現、及び再生医療の更なる普及、希少・難治性疾患治療への応用が期待されます。 各成果の詳細は、以下の通りです。

①ヒトLT-HSCの単離:
独自の解析手法を用いてヒトLT-HSCのバイオマーカーを同定した。

②ヒトLT-HSCの体外増幅技術の開発:
ヒトLT-HSCの未分化性を維持しつつ生体外で増殖する条件について研究開発を実施。その結果、ヒトLT-HSCのバイオマーカーを用いて得られた細胞分画を1週間培養しても純度は50%以上を維持した。

③ヒトHSC移植予後コンパニオン診断システムの開発:
過去の移植治療結果を基に幹細胞移植治療における患者毎の生存(GRFS (GVHD-free, relapse-free survival)、Relapse、GVHDの3か月後および1年後の予後を予測する機械学習モデルを構築した。本成果は、米国の国際学術誌「Blood Advances」に論文掲載された。
【参考】京都大学プレスリリース(2021年12月28日)
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-12-28-0

④予測能を向上させる新規因子の探索:
新規に同定したマーカーセットを用いたLT-HSC推測値と、これまで臨床や基礎研究で用いられてきた推測値とを比較し、早期の生着を予測する因子を特定した。

今後の展開

CiCLEにおいてヒトHSC増幅技術の開発およびヒトHSC移植予後予測コンパニオン診断システム開発の目標を達成したことにより、本研究で開発された培養技術や診断技術は、HSC移植のみならず、種々の細胞治療、再生医療等への応用が期待されます。 ネクスジェンでは本研究の成果のひとつとなる「細胞培養液」(RUO: Research Use Only(研究用途))の2022年度中の販売開始を計画しています。

用語説明

注1 ネクスジェン
本社:東京都品川区、代表取締役社長:中島 正和
URL:https://nextgem.jp/
組織幹細胞がもつ可能性を最大限活用することで、副作用の少ない根治療法の開発を目指し、マウス長期造血幹細胞に関する世界有数の技術をもとに設立したベンチャー企業。 また、独自のAI 技術開発による個別化治療法の開発やライフサイエンス領域への応用に向け、感染症をはじめ生殖不妊領域、血液がんを中心に国内外の企業・研究機関との産学連携 による共同研究を積極的に進めている。

注2 CiCLE
AMEDが実施しているCiCLEは、産学官連携により、我が国の力を結集し、医療現場ニーズに的確に対応する研究開発の実施や創薬等の実用化の加速化等が抜本的に革新される基盤(人材を含む)の形成、医療研究開発分野でのオープンイノベーション・ベンチャー育成が強力に促進される環境創出の推進を目的とした事業。

注3 移植片対宿主病(GVHD)
生着したドナーの細胞が患者の身体を攻撃する疾患。

注4 ドナー
同種造血幹細胞移植(同種移植)では、正常な造血機能をもった健康な人から造血幹細胞の提供を受ける必要があり、造血幹細胞の提供者をいう。

注5 レシピエント
臓器移植手術や骨髄移植手術等で臓器等の移植を受ける患者。ドナーから臓器等を提供される患者。

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